2025年のジャパンカップに挑む欧州からの招待外国馬4頭のプロフィール、近走パフォーマンス、東京芝2400mへの適性を徹底分析。20年ぶりの勝利を目指し、各陣営が採用する「チーム戦略」とは。現役欧州最強候補カランダガンや、復活を期す愛ダービー馬ロスアンゼルスなど、各馬の強みと課題を解説します。
この記事の要点
- 2025年ジャパンカップにはアイルランドとフランスから合計4頭の有力馬が参戦。
- F・グラファール厩舎は現役欧州最強候補のカランダガンと経験豊富なゴリアットで挑む。
- A・オブライエン厩舎は愛ダービー馬ロスアンゼルスをエースに、僚馬クィーンズタウンをペースメーカーとして帯同する戦術を採用。
- 20年間外国馬が勝利していない要因である日本の高速馬場への適性と、各陣営の「チーム戦略」が勝敗の鍵を握る。
2025年のジャパンカップは、国際レースとしてのアイデンティティが改めて問われる、極めて重要な年となります。JRAの発表によれば、アイルランドのA・オブライエン厩舎から2頭、フランスのF・グラファール厩舎から2頭、合計4頭の外国調教馬が招待を受諾しました。この4頭が挑むのは、単に日本の強豪馬だけではありません。2005年のアルカセット(英国)による勝利以来、20年間にわたって外国馬の勝利を拒み続けてきた、ジャパンカップという「壁」そのものです。
この20年間の「勝利の空白」は、日本競馬の質の劇的な向上と、東京・芝2400mの高速馬場という世界的に見ても特殊な適性要求を反映しています。注目すべきは、欧州のトップトレーナー2名が、それぞれ2頭出しという「チーム戦略」で挑んできた点です。これは、個々の馬の能力に頼るのではなく、戦略的な意図をもって、この難攻不落の砦を本気で攻略しようとする欧州陣営の強い意志の表れと言えるでしょう。4頭は11月20日に成田空港に到着後、東京競馬場の国際厩舎へ移動し、決戦に備えます。本レポートは、この4頭のプロフィール、近走のパフォーマンス、そして東京・芝2400mという舞台への適性について、徹底的に分析・評価するものです。
| 馬名 | 年齢/性別 | 調教師 (所属国) | 父馬 | 主要G1勝利および近走概要 |
|---|---|---|---|---|
| ロスアンゼルス | 牡4 | A・オブライエン (愛) | Camelot | G1・3勝 (24年愛ダービー、25年タタソールズGC等)。前走 凱旋門賞17着。 |
| クィーンズタウン | セン5 | A・オブライエン (愛) | Galileo | 未勝利勝ちのみ。近2走がカドラン賞(G1, 4000m)3着、ロワイヤルオーク賞(G1, 3100m)2着のステイヤー。 |
| カランダガン | セン4 | F・グラファール (仏) | Gleneagles | G1・3連勝中 (サンクルー大賞、キングジョージ、英チャンピオンS)。前走で世界ランク首位馬を破る。 |
| ゴリアット | セン5 | F・グラファール (仏) | Adlerflug | G1・2勝 (24年キングジョージ、25年バーデン大賞)。前走 BCターフ11着。昨年JC6着。 |
カランダガン(Calandagan):現役欧州最強馬の証明
プロフィールと実績の精査
カランダガン(セン4、仏F・グラファール厩舎、父グレンイーグルス)は、アガ・カーンスタッドの所有馬であり、現在ヨーロッパで最強の座に最も近いと評価される一頭です。彼がG1・3連勝を飾ったサンクルー大賞、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、英チャンピオンSは、いずれもヨーロッパの最高峰に位置する芝のG1競走です。彼の通算成績13戦7勝は、すべて芝レースで達成されたものです。父グレンイーグルスは優秀なマイラーであり、カランダガン自身が「セン馬(Gelding)」であることは、彼のキャリアを理解する上で非常に重要です。セン馬であるため種牡馬としての価値に縛られず、競走能力の最大化と賞金獲得にキャリアを特化できます。
パフォーマンス分析:G1・3連勝の軌跡
カランダガンのパフォーマンスは、2025年シーズンに入り、まさに覚醒の域に達しています。サンクルー大賞(G1, 2400m)、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1, 2390m)、そして英チャンピオンS(G1, 2000m)と、異なる距離、異なる競馬場でG1・3連勝を飾りました。特筆すべきは、前走の英チャンピオンSです。このレースで彼は、当時「最新の世界ランクで単独首位」と評価されていたオンブズマンを、2馬身1/4差で完膚なきまでに破りました。レースは堅実なペースで進み、直線でオンブズマンが並びかけてきたものの、カランダガンはそこから最高のギアチェンジを見せ、一気に突き放したと報じられています。このG1・3連勝は、2400mのスタミナと2000mのスピード・瞬発力の両方を証明しており、欧州馬でありながら鋭い決め手を発揮できる能力は、まさにジャパンカップで要求される資質そのものです。
ジャパンカップへの適性評価
カランダガンをジャパンカップの最有力候補に押し上げる理由は、単なる実績ではありません。世界ランク1位の馬を「瞬発力(change of gear)」で置き去りにしたという事実です。彼は、タフなアスコットの芝で、日本競馬的な「キレ」を披露しました。唯一の懸念材料は、日本の硬く速い「高速馬場」に瞬時に適応できるかという点です。しかし、この懸念を払拭するのが、トレーナーの「経験」です。グラファール師は、昨年ゴリアットでジャパンカップに参戦し6着という結果を身をもって経験しています。日本の馬場の硬さ、レースペースの異質さを誰よりも深く理解している彼が、カランダガンを日本に送り込む。これは、カランダガンが日本の瞬発力勝負を克服できるという、トレーナーの確信の表れに他なりません。
ゴリアット(Goliath):2年目の挑戦と経験のアドバンテージ
プロフィールと「リピーター」の強み
ゴリアット(セン5、仏F・グラファール厩舎、父アドラーフルーク)は、カランダガンの僚馬であり、2年連続のジャパンカップ参戦となります。彼にとって最大の武器は、2024年のジャパンカップで6着に入線した「経験」です。長距離輸送、検疫、日本の特殊なレース環境とペース、そのすべてを彼は一度経験しています。昨年のレース内容を分析すると、道中は中団を追走し、上がり33.5秒という非常に速い脚を使って6着まで追い上げており、最後の直線での「キレ負け」だったことを示しています。この経験とデータは、グラファール厩舎が2025年の「チーム戦略」を組み立てる上で、最も貴重な財産となっています。
パフォーマンス分析:2つのG1タイトルと不振
ゴリアットは、2024年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)を勝利した実力馬です。2025年シーズンも9月7日の「バーデン大賞(G1)」を制し、復活を遂げました。しかし、2025年の彼のパフォーマンスは一貫性を欠いているのも事実です。バーデン大賞勝利後、陣営は高額な追加登録料を支払い、米国に遠征しました。
過酷なローテーションとジャパンカップへの役割
11月1日にデルマー競馬場で行われたブリーダーズカップターフ(G1)に出走したゴリアットですが、結果は11着と惨敗に終わりました。この事実は、ジャパンカップ挑戦において深刻な懸念材料となります。彼は世界中を転戦する過酷なローテーションの真っ只中にあり、米国での惨敗からわずか数週間という、疲労が懸念される状況です。この状況と、同厩舎のカランダガンの圧倒的なパフォーマンスを考慮すると、2025年のゴリアットの役割は「エース」ではなく、「サポート」であると分析するのが妥当でしょう。日本のコース経験があり、スタミナも豊富な彼を、グラファール師がエースのためにハイレベルな「ペースを作る」役、あるいは日本の有力馬のマークを引き受ける「盾」として利用する可能性は非常に高いと考えられます。
ロスアンゼルス(Los Angeles):栄光とスランプの狭間のクラシック馬
プロフィールとデータの精査
ロスアンゼルス(牡4、愛A・オブライエン厩舎、父キャメロット)は、名門オブライエン厩舎が送り込むG1・3勝のクラシックホースです。
パフォーマンス分析:G1・3勝の栄光
ロスアンゼルスは、2023年のクリテリウムドサンクルー(G1, 2000m)、2024年の愛ダービー(G1, 2400m)、そして2025年のタタソールズゴールドC(G1, 2100m)とG1を3勝。特に2024年シーズンは、英ダービー3着、愛ダービー1着、そして凱旋門賞3着と、世代の頂点を争う輝かしい実績を残しました。ジャパンカップと全く同じ「2400m」のクラシックディスタンスで頂点に立った彼のプロフィールは、本来、理想的なものです。
2025年のスランプと凱旋門賞17着
2025年は、5月のタタソールズゴールドC(G1)を勝利し幸先の良いスタートを切ったものの、そこから歯車が狂い始めます。プリンスオブウェールズS 5着、ロイヤルホイップS 4着、フォワ賞 4着と凡走を繰り返し、前走、2024年に3着と好走した凱旋門賞(G1)で、17着というキャリア最大の惨敗を喫しました。
ジャパンカップへの適性評価(Xファクター)
このジャパンカップ参戦は、彼の「再起」を賭けた遠征に他なりません。A・オブライエン調教師は、2025年秋の欧州のタフな馬場をロスアンゼルスが極端に嫌気した可能性に賭けているのかもしれません。東京競馬場の硬く速い馬場こそが、彼の2024年の輝きを取り戻すための「治療薬」となりうるのです。これは、出走馬の中で最大の「Xファクター」と言えます。この賭けを成功させるため、オブライエン師は僚馬クィーンズタウンを帯同させています。ステイヤーであるクィーンズタウンがレースを先導し、レースを2400mの純粋なスタミナ戦に変えることで、オブライエン師はロスアンゼルスに最大の勝機を作り出そうとしています。
クィーンズタウン(Queenstown):未知なる長距離砲
プロフィールとデータの精査
クィーンズタウン(セン5、愛A・オブライエン厩舎、父ガリレオ)は、今回の招待馬の中で最も異質な存在です。
パフォーマンス分析:欧州最強ステイヤー路線
クィーンズタウンの勝利はデビュー3戦目の未勝利戦のみですが、彼の真価はその距離適性にあります。ここ2走は、ヨーロッパの超長距離G1レースで連続して好走。芝4000mのカドラン賞(G1)で3着、芝3100mのロワイヤルオーク賞(G1)で2着と、スタミナが問われるレースで確かな実績を残しています。
ジャパンカップへの適性評価(戦術的役割の特定)
なぜ、4000mの馬が2400mのジャパンカップに出走するのか。彼はロスアンゼルスの僚馬であり、その走法は「逃げ・先行」、調教師はA・オブライエンです。これらの事実から、彼の役割は100%明確になります。クィーンズタウンの任務は、エースであるロスアンゼルスのために「ペースメーカー(ラビット)」を務めること。父ガリレオ譲りのスタミナを武器に、東京の2400mをハイペースで牽引し、日本の馬が持つ「瞬発力」を封じ込め、レースをエースのためのスタミナ勝負に変える。彼の出走は、極めて戦術的な一手なのです。
| 馬名 | 2025年 主要G1勝利 | 直近のビッグレース成績 | JC適性(2400m) | JC適性(高速馬場) | アナリスト評価 (役割) |
|---|---|---|---|---|---|
| カランダガン | G1・3勝 (仏/英) | 英チャンピオンS 1着 | ◎ (2400m G1勝利) | △ (未知数) | エース (最有力) |
| ゴリアット | バーデン大賞(G1) | BCターフ 11着 | ◯ (JC 6着経験) | ◯ (経験あり) | サポート (経験/盾) |
| ロスアンゼルス | タタソールズGC(G1) | 凱旋門賞 17着 | ◎ (2400m G1馬) | ◎ (適性期待) | エース (Xファクター) |
| クィーンズタウン | (なし) | ロワイヤルオーク賞 2着 (3100m) | × (距離不足) | × (適性外) | サポート (ペースメーカー) |
総合比較分析と戦略的展望
チーム・グラファール vs チーム・オブライエン
2025年のジャパンカップにおける外国馬の挑戦は、2つの「チーム」による戦いという構図が鮮明です。
- チーム・グラファール(カランダガン & ゴリアット):「才能と経験」のチーム。カランダガンは日本的な瞬発力を併せ持つ「才能」を、ゴリアットは日本のコースを実戦で経験している「経験」を武器とします。
- チーム・オブライエン(ロスアンゼルス & クィーンズタウン):「クラシックとスタミナ」のチーム。ロスアンゼルスは2400mの愛ダービーを制した「クラシック」の資質を、クィーンズタウンはレースペースを支配する「スタミナ」を持ちます。
東京2400m(高速馬場)への最終適性評価
カランダガン最高のプロファイルを持つ。2400mと2000mの両方でG1を勝ち、東京の直線で不可欠な「ギアチェンジ」も持つ。トレーナーも日本の馬場を熟知しており、20年ぶりの勝利に最も近い馬です。ロスアンゼルス最高のリスクと最高のリターンを内包します。プロフィールは完璧ですが、直近のフォームは最悪。東京の高速馬場が彼を「治癒」するかどうかの大博打ですが、専用のペースメーカーの存在は強力なアドバンテージです。ゴリアット勝利の可能性は低いでしょう。過酷な輸送と昨年の実績は、彼が勝ち切るレベルには一歩及ばないことを示唆しており、役割は僚馬のサポートに徹することになりそうです。クィーンズタウン勝利の可能性はゼロです。彼の存在意義は100%戦術的なもの。彼がどこまでハイペースで逃げ、レースをかき乱せるかが、チーム・オブライエンの成否を左右します。
結論:外国馬による20年ぶりの勝利の可能性
過去20年間にわたる外国馬の敗北は、その多くが日本の「スピードレース」に欧州型の「スタミナ馬」を送り込むという、根本的なミスマッチが原因でした。しかし、2025年の挑戦者たちは、その教訓を明確に学んでいます。カランダガンは「キレる」フィニッシャーであり、ロスアンゼルスは「本物の」クラシックホースです。
2025年の外国馬陣は、近年稀に見る「戦略的」かつ「適性の高い」布陣です。特に、オブライエン厩舎とグラファール厩舎が採用する「チーム戦略」は、エースの才能を最大限に活かすためのものです。筆頭はカランダガンであり、彼が持つ世界レベルの実績と、欧州馬離れした「瞬発力」は、日本の地元勢が築いてきた20年間の「壁」を打ち破るに十分な可能性を秘めています。