ジャパンカップ 2025 共同記者会見：有力馬の本音と勝算の完全解剖

序論：世紀の一戦、東京競馬場に集う「世界最強」と「世代の頂点」

2025年11月、東京競馬場で開催されるジャパンカップ（G1）は、世界最高峰の賞金と名誉をかけた一戦となる。今年は、日本競馬史における「最強世代」と称される3歳勢、歴戦の古馬、そして海外の強豪馬が激突する、まさに世紀の一戦である。本レポートは、レース直前に行われたJRA共同記者会見における各陣営（調教師、騎手）のコメントを分析し、表面的な言葉の裏に隠された戦略や本音、そして各馬の仕上がり、コース適性、勝利へのシナリオを専門的視点から解説する。

3歳勢の衝撃：マスカレードボールとクロワデュノールが描く新時代の覇権

2025年のクラシック世代はハイレベルであり、その中心にいるのが天皇賞（秋）覇者のマスカレードボールとダービー馬クロワデュノールである。両馬の会見からは、対照的な現状と共通する自信、そして東京2400mへの異なるアプローチが浮かび上がる。

マスカレードボール：天皇賞（秋）覇者が抱える「ゲート」の不安と「肉体」の進化

手塚貴久調教師のコメント:

• 天皇賞（秋）勝利は評価するも、東京2400mの舞台設定は「いいとは言えない」と慎重な姿勢。
• 懸念点: 東京2400m特有の「精神的なシチュエーション」、特に馬場入りからゲートインまでのプロセスがテンションに悪影響を与える可能性を指摘。「馬の自我の強さが2400mでの折り合いに影響する可能性」を警戒。
• フィジカル面: 「肉体面の上積みはある」と断言。天皇賞（秋）の激走の反動をケアしつつ、精神的なリカバリーを優先させた調整。
• 中間調整: 山元トレセンへ短期放牧。リフレッシュと精密な身体チェックを実施。再入厩後は落ち着きを取り戻している。1週前追い切りはチップコースで長めから「合格点」の動き。最終追い切りは坂路で軽めの調整。
• 戦略: 「胸を借りる立場」と謙遜するが、これはプレッシャー回避の戦略。主戦クリストフ・ルメール騎手への全幅の信頼と馬の能力への自信を示す。

クロワデュノール：凱旋門賞からの帰還と「C.デムーロ」による最終診断

斉藤崇史調教師のコメント:

• 凱旋門賞の敗因は「力不足」と潔く認め、レース後のダメージが皆無であったことがジャパンカップ参戦を可能にした最大の要因。
• 調整過程: 帰国後の1週前追い切りでは「驚くほど正直に物足りなさ」を吐露し、陣営を悩ませた。
• 起死回生の一手: 最終追い切りにクリスチャン・デムーロ騎手を起用。ダービー時のイメージを排し、客観的な評価を求めた。
• 最終診断: C.デムーロ騎手は「何の問題もない」「フィットネスも良い」と絶賛。斉藤師も「十分合格点」と評価を一変させた。この「外部の目」による診断が馬を覚醒させた。
• 目標: 「このクラスの日本の中でトップだっていうことを証明できる」とし、ジャパンカップを復権の舞台と位置づける。

4歳・古馬勢の逆襲：ダノンデサイルとタスティエーラの復活劇

3歳勢に対抗する古馬勢では、昨年のダービー馬ダノンデサイルと一昨年のダービー馬タスティエーラが課題を克服し、万全の態勢で臨む。

ダノンデサイル：昨年のダービー馬が語る「ベスト条件」と英国遠征の糧

戸崎圭太騎手のコメント:

• 東京コースへの絶対的な自信。「左回りで強さを見せている」「（東京2400mは）ベストと言っていいくらいの条件かなと、僕は思っています」と断言。
• 英国遠征の振り返り: 前走（インターナショナルステークス）では輸送や検疫明けの調整で「少しテンションが高くなっている」と感じ、リラックスして走れなかったと分析。能力負けではないとの認識。
• 状態: 帰国後の1週前追い切りでは「躍動感ある、いい動き」と評価。一方で「少し追い切りでは、遊びながら走ってたなという印象」とコメントし、有り余るパワーと精神的余裕の裏返しと捉える。
• 総評: 「特に不安がない」という言葉は、実績と経験に裏打ちされた自信の表れ。

タスティエーラ：スローペースの呪縛からの解放と「D.レーン」の勝算

D.レーン騎手、河原調教助手のコメント:

• 前走（天皇賞・秋）の敗因: レーン騎手は「Very slow pace」と強調。極端なスローペースで持ち味の持久力を活かせなかったと分析。展開さえ向けば結果は違っていたという強い確信。
• 状態: 前走時より「間違いなく言えるのは天皇賞からレベルアップっていうかよくなってる」と明言。河原助手も「自信を持ってジャパンカップに臨める」と語り、心身ともに充実。
• 距離延長: レーン騎手は2400mへの距離延長について「心配というのはないと思うし、いいパフォーマンスできると思う」とコメント。ダービー勝鞍のある舞台であり、ペースが流れることで持ち味が生きる展開を期待。

伏兵たちの勝機：ドゥレッツァ、ヨーホーレイク、アドマイヤテラ

有力馬の影に隠れがちだが、一発を狙う実力馬も存在する。

ドゥレッツァ：良馬場懇願と鞍上への期待

尾関知人調教師のコメント:

• 前走（京都大賞典）の敗因は「休み明けで体が少し立派」「当日の馬場もちょっと良くなかった」と分析。一度使ったことで状態は上向いていると強調。
• 希望: ドゥレッツァの切れ味を活かすため、「いいお天気で、パンパンの良馬場でやりたい」と良馬場を熱望。

ヨーホーレイク＆アドマイヤテラ：友道康夫厩舎のダブルパンチ

友道康夫調教師のコメント:

• ヨーホーレイク（7歳）: 長期休養を挟んだことで体が若々しく、「ディープ（インパクト）の底力を見せてくれるといいな」と期待。
• アドマイヤテラ（4歳）: 「左回りの方が相性がいい」と分析。「長くいい脚を使える」というセールスポイントは、東京2400mで大きな武器となる。

総合分析と展開予想：激流か、瞬発力勝負か

各陣営のコメントを総合すると、2025年ジャパンカップの展開と勝負のポイントが浮かび上がる。

展開シミュレーション:

• タスティエーラ陣営がスローペースを避けたい意向から、D.レーン騎手が早めに動く可能性があり、レース中盤のペースが上がることも予想される。
• クロワデュノールも積極的に好位を取りに行くことが予想され、ダノンデサイルがそれに続く形となりそう。

有力馬の展開予想と懸念点:

• ダノンデサイル: 想定位置取りは中団〜好位。「ベスト条件」「左回りで強さを見せる」が、海外帰りのテンションが懸念点。
• マスカレードボール: 想定位置取りは中団。「ダービー2着だが精神的に向かない可能性」があり、スタンド前発走による入れ込みが課題。
• クロワデュノール: 想定位置取りは好位。「2400mでも問題ない」が、状態が完全に復調しているかが鍵。
• タスティエーラ: 想定位置取りは好位〜中団。「2400mは心配ない」が、瞬発力勝負になった場合が懸念点。
• ドゥレッツァ: 想定位置取りは中団。「パンパンの良馬場希望」が、馬場悪化や当日の気配が懸念点。

統合的洞察（Integrated Insights）:

• 外厩調整の高度化: 多くの有力馬がレース直前まで外厩で調整し、トレセンでのストレス回避と外厩の高度な施設でのフィジカル作りが主流。
• 「ダービー馬」の復権とコース適性: 3世代のダービー馬が揃い、各陣営が「東京2400mへの絶対的な信頼」を表明。ジャパンカップでは距離適性以上に、広くて直線の長い東京コースへの適性がパフォーマンスを左右する。
• 騎手の「言語化」に見る自信の度合い: D.レーン騎手のロジカルな敗因分析や、戸崎圭太騎手のシンプルな断言は迷いのなさを表す。陣営コメントのトーンから、各馬の本当の自信度を推し量ることができる。

結論：ジャパンカップ 2025 を制するのは誰か

膨大な会見データを分析した結果、今年のジャパンカップは「適性」と「状態」が極めて高いレベルで合致した馬同士の争いとなることが予想される。

本命候補:ダノンデサイル
「ベスト条件」と言い切れる舞台適性、順調な調整過程、そして鞍上の迷いのなさから、死角が最も少ない存在。

対抗一番手:マスカレードボール
圧倒的な成長力と実績は最上位。ただし、スタート前のメンタルという不確定要素を抱え、当日の落ち着きが絶対条件。

単穴・惑星:クロワデュノール
C.デムーロ騎手による最終調整でスイッチが入った可能性。凱旋門賞のダメージがないフレッシュな3歳馬は、斤量面の恩恵もあり、古馬を撃破する爆発力を秘める。

特注馬:タスティエーラ
前走の敗因が明確で、状態が上向いている今、人気の盲点となる可能性。東京2400mでの巻き返しは必至。

2025年のジャパンカップは、各陣営が極限まで研ぎ澄ませた「適性」と「精神力」のぶつかり合いとなる。ゲートが開くその瞬間まで、微細な変化と陣営が発した言葉の真意から目を離してはならない。

参考文献

本レポートは、以下のJRA共同会見トランスクリプトおよび提供資料に基づき作成された。

• ダノンデサイル・戸崎圭太騎手 共同会見
• マスカレードボール・手塚貴久調教師 共同会見
• ドゥレッツァ・尾関知人調教師 共同会見
• タスティエーラ・D.レーン騎手 共同会見
• ヨーホーレイク・友道康夫調教師 共同会見
• アドマイヤテラ・友道康夫調教師 共同会見
• クロワデュノール・斉藤崇史調教師 共同会見
• タスティエーラ・河原龍義調教助手 共同会見