チャンピオンたちの週末：オブライエン厩舎の圧倒的支配、歴史的コックスプレート、新クラシックスターの夜明け

2025年10月28日

2025年10月25-26日の週末、世界の競馬界は歴史的な瞬間に沸きました。エイダン・オブライエン厩舎がフランスとイギリスのG1レースを席巻し、次世代のクラシック候補が台頭。一方オーストラリアでは、女王ヴィアシスティナが伝説的なコックスプレート連覇を達成。この週末の世界的なG1レースの結果と、来シーズンへの影響を詳細に解説します。

この記事の要点

• エイダン・オブライエン厩舎の2歳馬がフランスとイギリスのG1を席巻し、圧倒的な戦力層を証明しました。
• ピエールボナールとホークマウンテンがそれぞれG1を制し、2026年ダービーの有力候補に浮上しました。
• 女王ヴィアシスティナがウィンクス以来となるコックスプレート連覇を、歴史に残る激闘の末に達成しました。
• 新星アティカがキャリアわずか4戦目でスプリングチャンピオンSを制し、オーストラリアの新星として注目を集めています。

第1部 サンクルーの覇権：オブライエン厩舎の未来のスターたちがパリで輝く

フランス競馬シーズンのフィナーレを飾るサンクルー競馬場でのG1レースは、2026年の欧州クラシック戦線を定義するであろう2歳馬たちのパフォーマンスに世界中の注目が集まりました。エイダン・オブライエン厩舎がこの舞台を席巻し、その圧倒的な戦力の厚さを見せつけました。

新たなダービーキングの戴冠：ピエールボナール、クリテリウムドサンクルーを圧勝

2歳馬にとって2000メートルの距離が試されるクリテリウムドサンクルーは、翌年の英ダービーや仏ダービーへの重要な指標となるレースです。ここで主役となったのは、エイダン・オブライエン調教師が送り出したピエールボナールでした。単勝1.4倍という圧倒的な支持に応え、その非凡な能力を余すところなく発揮しました。

レースパフォーマンス分析

クリストフ・スミヨン騎手を背にしたピエールボナールは、道中楽な手応えで先行集団を追走。直線で満を持して追い出されると、力強く抜け出して後続に2馬身差をつける圧勝を遂げました。スミヨン騎手は、前走とは異なる戦術で早めに仕掛け、スローペースの瞬発力勝負を避けるという巧みな騎乗を見せました。この勝利は「Very Soft（極めて軟らかい）」馬場という初体験のコンディションで達成されたものであり、オブライエン師はこれを貴重な「教育」の一環と捉えました。

この勝利はピエールボナールにとってG1初制覇であり、キャリア4戦目にして3勝目となりました。また、オブライエン調教師にとっては2025年シーズン25回目のG1勝利となり、自身が2017年に樹立した年間G1勝利記録（28勝）にまた一歩近づく記念すべきものとなりました。

関係者のコメント

レース後、オブライエン師は賛辞を惜しみませんでした。「彼は特別な馬だ。典型的なキャメロット産駒で、クラシックの風格がある」と述べ、その大きなストライドと優れた精神力を称賛。「彼はダービー馬であり、来年はクラシック路線に進むことになる」と明言しました。スミヨン騎手もまた、「彼が本当に大好きだ。素晴らしい感触で、来シーズンの偉大な馬になると確信している」と、その才能に惚れ込んだ様子でした。

将来への展望

このクリテリウムドサンクルーでの圧巻のパフォーマンスは、単なる1勝以上の意味を持ちます。この勝利により、ピエールボナールは翌2026年の英ダービーにおける前売りオッズで一躍本命候補へと躍り出ました。オブライエン師が公言するように、彼の目標は明確にダービー制覇であり、この日の勝利は、欧州で最も権威あるクラシックレースを巡る冬の間の議論の様相を一変させるものでした。

また、この日のオブライエン厩舎のG1ダブルを達成したクリストフ・スミヨン騎手の存在は、バリードイルの戦略的な強みを浮き彫りにします。主戦騎手が不在の際にも、フランス競馬を熟知したワールドクラスの騎手を起用できるという層の厚さは、他の厩舎に対する大きなアドバンテージです。これは、オブライエン厩舎の持続的な成功が、優れた馬だけでなく、人的資本と戦略的な奥行きによっても支えられていることを示しています。

多才な勝利者：プエルトリコ、クリテリウムアンテルナシオナルでクラシック二冠を達成

同じくサンクルー競馬場で行われた2歳馬による1600メートルのG1、クリテリウムアンテルナシオナルでは、再びオブライエン厩舎のプエルトリコがその才能を見せつけました。この勝利は、異なる距離でのG1連勝となり、彼の非凡な万能性を証明するものでした。

レースパフォーマンス分析

ピエールボナール同様、オブライエン師とスミヨン騎手のコンビで臨んだプエルトリコは、単勝1.4倍の圧倒的人気に応え、1.75馬身差で快勝しました。レースは、オブライエン師の「逃げの手を打ち、他とは違うことを試みるな」という指示通り、スミヨン騎手が自信を持って先行策を取り、直線でも力強く伸びて「楽勝」を収めました。

この勝利は、ドンカスター競馬場のG2シャンペンステークスでの初勝利、そして凱旋門賞ウィークエンドのG1ジャンリュックラガルデール賞に続くもので、秋シーズンにおける彼の急成長ぶりを物語っています。スミヨン騎手は、前走よりも「集中力が増し、少し成熟した」と彼の精神的な成長を指摘しました。

関係者のコメント

オブライエン師はプエルトリコを「スピードとスタミナを兼ね備えた珍しい馬」と評し、「まずはギニー（マイル路線）、そしてダービー（中距離路線）を目指す馬」として、両クラシックへの挑戦を示唆しました。スミヨン騎手も「素晴らしい馬」と絶賛し、楽に勝利できたことを強調しました。

将来への展望

プエルトリコの勝利は、バリードイル厩舎にとって興味深い戦略的課題を提示します。オブライエン師のコメントは、彼が2000ギニー（1600m）の最有力候補であり、ダービー（2400m）への距離延長も視野に入れていることを示唆しています。これは、純粋なダービー候補と目されるピエールボナールとは異なる路線です。厩舎が2頭のスターを別々の道（ギニーとダービー）に進ませるのか、それともプエルトリコのスタミナを試し、ダービーに2頭の有力候補を送り込むのか。その決断は、来シーズンの大きな注目点となるでしょう。

さらに、この週末の結果は、種牡馬ウートンバセットの計り知れない価値を証明しました。彼はクリテリウムアンテルナシオナルを制したプエルトリコと、後述するフューチュリティトロフィーを制したホークマウンテンの父です。同じ週末に、異なる国の2つのG1を産駒が制覇するという快挙は、彼が世界のエリート種牡馬としての地位を確固たるものにしたことを意味します。

兄の伝説を継ぐ者：アローイーグル、ロワイヤルオーク賞でステイヤーとして開花

この日のサンクルー競馬場では、フランスの長距離王決定戦であるロワイヤルオーク賞（3100m）も行われました。ここで栄冠を手にしたのは、前年の凱旋門賞馬エースインパクトの半兄にあたるアローイーグルでした。彼はこのレースで自身初となるG1タイトルを獲得し、偉大な弟とは異なるステイヤーとしての道を切り開きました。

レースパフォーマンス分析

ジャンクロード・ルジェ厩舎、クリスチャン・デムーロ騎手のコンビで臨んだアローイーグルは、単勝3.1倍の1番人気に応え、2着に2馬身差をつける快勝を収めました。デムーロ騎手は道中、先行集団の後ろで完璧なレース運びを見せ、直線では「非常に楽な手応え」で外に持ち出すと、鋭い末脚を繰り出して楽に勝利を掴みました。今回が初の長距離挑戦でしたが、陣営が以前から期待していた通り、距離延長が彼の素質を完全に開花させました。

この勝利は、凱旋門賞での6着という健闘に続くものであり、春のG3エドゥヴィル賞、G2シャンティイ大賞典の勝利に続く、待望のG1タイトルとなりました。

情報源の矛盾について
なお、一部の情報源ではアローイーグルが「期待外れのパフォーマンス」で「上位から大きく離されてフィニッシュした」と誤って報じられていますが、これは事実に反します。スポーティングライフ、レーシングTV、フランスギャロ、サラブレッドデイリーニュースをはじめとする多数の信頼できる国際的な競馬メディア、および公式レース結果は、彼が決定的な勝利を収めたことを一貫して報じています。

関係者のコメント

デムーロ騎手は、偉大な半弟エースインパクトで栄光を掴んだ経験を振り返り、「このファミリーの一員であることを誇りに思う」と語りました。また、「彼はレースごとに成長している」と、今後のさらなる飛躍に期待を寄せました。ルジェ師の右腕であるジャンルネ・デュボスク氏は、凱旋門賞では「少し力を出しすぎた」と振り返りつつ、「来年の4月まで休養に入る」と今後のプランを明かしました。

将来への展望

アローイーグルの勝利は、彼の血統の優秀さを改めて証明しました。半弟エースインパクトが中距離路線で比類なき強さを見せたのに対し、彼は長距離路線でG1を制覇。これは、彼らの母であるアブソリュートリーミーが、異なる距離適性を持つトップクラスの競走馬を産むことができる、真に優れた繁殖牝馬であることを示しています。この勝利は、一族全体の評価をさらに高めるものとなりました。

第2部 ドンカスターの決戦：フューチュリティトロフィーでのスタミナ比べ

舞台はイギリスに移り、英国平地シーズンの最後を飾るG1、フューチュリティトロフィーステークス。このレースは「ダービーへの登竜門」として知られ、この年もまた、来年のクラシック戦線を大きく左右するドラマチックな結果となりました。

ホークマウンテン、極悪馬場を制しバリードイルが表彰台を独占

ドンカスター競馬場は、降り続いた雨により「Heavy（極めて重い）」というタフな馬場コンディションに見舞われました。この過酷な条件が、レースの行方を大きく左右しました。エイダン・オブライエン厩舎が送り出した3頭が1着から3着までを独占したものの、その着順は市場の予想を覆すものでした。

レースパフォーマンス分析

勝利したのは、オブライエン厩舎の3頭の中では最も評価の低かったホークマウンテンでした。ローナン・ウィーラン騎手に導かれ、単勝4.6倍の評価を覆して半馬身差で勝利を掴みました。レースは、同じ厩舎のアクションとの激しい叩き合いとなり、ホークマウンテンが最後の直線で競り勝ちました。一方、単勝2.75倍の1番人気に支持されていたベンヴェヌートチェッリーニは、この極悪馬場に苦しみ、先行する2頭の決め手に付いていくことができず、2.75馬身離された3着に終わりました。

この勝利は、エイダン・オブライエン調教師にとってこのレース12度目の制覇という新記録であり、シーズン23回目のG1勝利となりました。ホークマウンテンにとっては、G2ベレスフォードステークスに続く勝利で、これで3連勝となりました。

関係者のコメント

オブライエン師は勝者を「タフで、クラシックの風格があり、信じられないほどの精神力を持っている」と称賛しました。そして、レース結果の鍵が馬場状態にあったことを明確に説明しました。ホークマウンテンは重馬場をこなせると考えていた一方で、ベンヴェヌートチェッリーニは「馬場に脚を取られ、高速馬場を得意とする馬」であると述べました。ウィーラン騎手は、勝者がまだ「非常に幼く、遊びながら走っている」と述べ、その潜在能力の底はまだ見えないと示唆しました。

将来への展望

このフューチュリティトロフィーの結果は、欧州競馬における馬場状態の重要性を改めて示す典型的な事例となりました。重馬場というコンディションは、1番人気ベンヴェヌートチェッリーニが持つと見られていたクラスの優位性を完全に無効化し、軟らかい馬場での実績があったホークマウンテンの強みを引き出しました。

レース後のオブライエン師のコメントは、単なる結果説明に留まらず、厩舎が所有する価値ある3頭のクラシック候補の将来的な評価を巧みに管理する戦略的な意図がうかがえます。敗れた1番人気馬に対しても「高速馬場なら」というポジティブな見通しを示し、3頭それぞれに異なるクラシックへの道筋を描くことで、1レースの結果に関わらず、彼らの競走馬および種牡馬としての価値を保護しています。これは、クールモアという巨大な生産・競馬帝国の総帥としての、彼の卓越した手腕を示すものです。この勝利により、ホークマウンテンもまた、ピエールボナールと並んで翌年のダービーの有力候補として注目されることになりました。

第3部 南半球のドラマ：オーストラリアで歴史と新星が誕生

週末の興奮は南半球オーストラリアにも及びました。同国を代表する2つのG1レースで、伝説的なパフォーマンスと、新たなスターの目覚ましい台頭が見られました。

伝説の再来：ヴィアシスティナ、激闘の末にコックスプレート連覇を達成

オーストラリアの最高峰、馬齢重量戦のコックスプレートは、ムーニーバレー競馬場が大規模な改修工事に入る前の最後の開催ということもあり、歴史的な雰囲気に包まれていました。この記念すべきレースの主役となったのは、クリス・ウォーラー厩舎の女王ヴィアシスティナでした。彼女は、同じくウォーラー厩舎の伝説的名牝ウィンクス以来となる、同レース連覇の偉業を成し遂げました。

レースパフォーマンス分析

ジェームズ・マクドナルド騎手を背にしたヴィアシスティナは、単勝2.25倍の1番人気に支持されましたが、その勝利は決して平坦なものではありませんでした。前年の8馬身差の圧勝とは対照的に、今年は同じ厩舎のバックアローとの壮絶な叩き合いの末、わずか短頭差での勝利でした。彼女の「信じられないほどの勝利への意志」と「不屈の闘志」が、この歴史的な勝利をもたらしました。

この勝利は、クリス・ウォーラー調教師にとってコックスプレート6勝目、そしてジェームズ・マクドナルド騎手にとっては同レース4連覇という、双方にとって金字塔となりました。

関係者のコメント

レース後、マクドナルド騎手は安堵の表情を浮かべ、「今回は安堵感が大きい」と語りました。そして、勝者を「チャンピオンホース」と称え、「サンラインのような名馬たちと肩を並べるに値する」と最大級の賛辞を送りました。2着バックアローに騎乗したマーク・ザーラ騎手は、勝者の強さに脱帽し、「彼女は並びかけられると、必ず首一つ前に出る。素晴らしい牝馬だ」と語りました。

将来への展望

前年の圧倒的な勝利とは対照的な、今年の僅差での勝利は、チャンピオンであり続けることの難しさを物語っています。近2走で敗れ、「脆さ」も指摘されていた中で、最も重要な舞台で最高のパフォーマンスを発揮し、激しい競り合いを制した彼女の姿は、絶対的な能力だけでなく、純粋な闘争心と王者の気概という、異なる側面の強さを見せつけました。

また、ウォーラー厩舎が1、2着を独占したという事実は、彼がウィンクス時代以降もオーストラリアの頂点に君臨し続けていることを証明しています。同じ目標のレースに複数の馬を完璧に仕上げるその手腕は、彼の卓越した調教能力の証です。この結果は、クリス・ウォーラーという存在そのものが、もはやコックスプレートの物語に不可欠な要素であることを示しています。

彗星の如き登場：アティカ、スプリングチャンピオンステークスで新時代を告げる

オーストラリアの3歳クラシック戦線では、新たなスターが誕生しました。スプリングチャンピオンステークスにおいて、キャリアわずか4戦目のアティカが、驚異的な末脚でG1タイトルを手にしました。

レースパフォーマンス分析

ジョー・プライド厩舎のアティカは、アダム・ヒエロニマス騎手を背に、単勝4.0倍の評価でレースに臨みました。不利な外枠からのスタートにもかかわらず、「見事なパフォーマンス」を披露。後方からレースを進め、直線では大外から「断固たる末脚」を繰り出し、単勝3.2倍の1番人気馬シャングリラボーイをゴール寸前で差し切り、短首差で勝利しました。9月上旬にデビューしたばかりの馬が、わずか1つの準備期間でG1を制覇するという、まさに驚くべき快挙でした。

勝利騎手のヒエロニマスは、2着馬シャングリラボーイに前2走で騎乗しており、その能力を熟知していました。しかし彼は、アティカが「常に彼を捉え続けていた」と述べ、最後の150メートルで勝利を確信したと語りました。

関係者のコメント

プライド調教師は、「この馬の潜在能力はまだ表面を引っ掻いたに過ぎない」と、その才能を絶賛。レース後、アティカを休養に入れ、秋のランドウィックギニーなどの大レースを目標に据えるプランを明かしました。

将来への展望

アティカの勝利は、早期から厳しい2歳戦を戦う欧州の馬たちとは対照的に、馬の成長をじっくりと待つ調教アプローチの成功例と言えます。プライド師の長期的な視野に立った戦略は、目先の勝利よりも、3歳クラシックシーズンでの本格的な開花を目指すものであり、このG1勝利はその哲学がもたらした輝かしい成果です。彼の登場は、オーストラリアのクラシック戦線に新たな風を吹き込むことになるでしょう。

結論：世界の舞台で刻まれた決定的な瞬間

2025年10月25日と26日の週末は、世界中の競馬ファンに忘れがたい記憶を刻みました。エイダン・オブライエン厩舎は、ピエールボナールとホークマウンテンをダービー市場の主役に押し上げ、プエルトリコをギニー戦線の中心に据えることで、その圧倒的な2歳馬戦力を誇示しました。オーストラリアでは、ヴィアシスティナが才能だけでなく、王者の魂でコックスプレートの歴史にその名を深く刻み込みました。そして、新星アティカの彗星の如き登場は、来たる秋のクラシックシーズンへの期待を大きく膨らませました。わずか一つの週末が、これほどまでに翌年の競馬界のシナリオと主役たちを劇的に描き出す。これこそが、グローバルスポーツとしての競馬の醍醐味と言えるでしょう。