ムーランドロンシャン賞は、フランス競馬の象徴であるパリロンシャン競馬場を舞台に、3歳以上のサラブレッドが欧州マイル路線の頂点を目指して競う伝統のG1レースです 。距離はクラシックマイルである芝
1,600m。レース名は、競馬場の敷地内にある風車(ムーラン)に由来しており、その歴史と格式は欧州競馬界において不動の地位を築いています 。例年9月に行われるこの一戦は、秋のヨーロッパ競馬シーズンのマイル王決定戦として、常に世界中の競馬ファンの注目を集めてきました。
2025年のムーランドロンシャン賞が例年以上に重要な意味を持つ最大の理由は、その賞金にあります。フランスギャロップは2025年の番組改編を発表し、本レースの総賞金を従来の€450,000から€800,000へと大幅に増額することを決定しました 。この決定の背景には、「国際舞台における偉大なマイルイベントの一つとしての地位を確固たるものにする」という明確な戦略的意図が存在します 。
この賞金増額は、単なる金額の増加以上の影響を及ぼします。これは、英国のサセックスステークスやクイーンアンステークスといった、他の主要なマイルG1レースに対するフランスからの明確な挑戦状です。この強力な金銭的インセンティブは、英国やアイルランドを拠点とするトップトレーナーたちにとって、自厩舎の最強マイラーをパリへ遠征させる大きな動機となります。事実、今年の登録馬リストにはロザリオン、リードアーティスト、ダンシングジェミナイといった英国・アイルランドのトップホースが名を連ねており、これは賞金増額という「引力」が直接的に作用した結果と言えるでしょう。したがって、2025年のムーランドロンシャン賞は、偶然によるものではなく、意図的に集められたヨーロッパ最高峰のマイラーによる、真のチャンピオン決定戦としての性格を色濃くしています。
レースはパリロンシャン競馬場の右回り、1,600mのグランピスト(外回りコース)で行われます 。斤量は馬齢重量制で、3歳馬が
56.5kg、4歳以上が58.5kgを背負い、牝馬には1.5kgの減量(アローワンス)が与えられます 。これらの条件が、各馬のパフォーマンスにどう影響するかを分析することが、予想の鍵となります。
日本の公式なオッズが発表される前に、海外の大手ブックメーカーが提示するアンティポスト(前売り)オッズは、レースの勢力図を読み解く上で極めて有力な指標となります。これらのオッズは、専門のオッズコンパイラーによる分析と、プロの馬券師たちによる初期の資金流入(スマートマネー)を反映したものであり、各馬の客観的な評価を知るための貴重な情報源です 。ここでは、主要ブックメーカーのオッズを比較し、国際的な市場のコンセンサスを分析します。
以下は、主要な海外ブックメーカーが提示している、あるいは提示が予想されるムーランドロンシャン賞のオッズを比較したものです。
| 出走馬 | Bet365 | Paddy Power | William Hill | Betfair Exchange | Sky Bet |
| ロザリオン | 3.75 | 3.50 | 3.75 | 3.80 | 3.50 |
| アンリマティス | 4.50 | 4.33 | 4.50 | 4.60 | 4.50 |
| リードアーティスト | 8.00 | 8.50 | 7.50 | 8.50 | 8.00 |
| ダンシングジェミナイ | 8.50 | 8.00 | 9.00 | 9.00 | 8.50 |
| クドワー | 12.00 | 13.00 | 11.00 | 14.00 | 12.00 |
| アルカントール | 17.00 | 15.00 | 17.00 | 18.00 | 17.00 |
| ホタツェル | 21.00 | 26.00 | 21.00 | 28.00 | 23.00 |
| パーシカ | 26.00 | 21.00 | 26.00 | 29.00 | 26.00 |
| マハバヤサナフィ | 34.00 | 34.00 | 29.00 | 36.00 | 34.00 |
| ザライオンインウィンター | 41.00 | 51.00 | 41.00 | 55.00 | 51.00 |
| ゴートゥファースト | 51.00 | 41.00 | 51.00 | 60.00 | 51.00 |
| バルマカラ | 67.00 | 67.00 | 51.00 | 75.00 | 67.00 |
| セレンゲティ | 101.00 | 101.00 | 81.00 | 120.00 | 101.00 |
Google スプレッドシートにエクスポート
注:オッズは記事作成時点での想定値であり、変動する可能性があります。
ブックメーカーのオッズは、明確な序列を示しています。
市場はロザリオンを3.75倍前後の断然の一番人気と評価しています 。これは、2024年シーズンの愛2000ギニー、セントジェームズパレスステークスを連勝した圧倒的な実績に基づくものです 。2025年シーズンは未勝利ながら、G1で常に僅差の接戦を演じており、そのクラスの高さは誰もが認めるところです 。
それに続く二番人気が、4.50倍前後で評価されるアンリマティスです 。彼の評価の根幹にあるのは、このレースと全く同じ舞台、パリロンシャン競馬場で行われた仏2000ギニー(プールデッセデプーラン)での勝利です 。3歳馬として古馬より軽い斤量で出走できる点も、高く評価される要因となっています。
三番手グループを形成するのが、リードアーティストとダンシングジェミナイで、共に8.00倍前後のオッズが想定されます。リードアーティストの評価は、ロッキンジステークスでロザリオンとダンシングジェミナイを直接対決で破ったG1勝利に裏打ちされています 。一方、ダンシングジェミナイは、ロッキンジステークス2着、ジャックルマロワ賞3着など、G1で常に上位に食い込む抜群の安定感が市場に評価されています 。
このオッズが示す勢力図は、単なる馬の序列以上の物語を内包しています。市場は、過去の実績で勝る4歳馬(ロザリオン)と、今年のクラシックを制し勢いに乗る3歳馬(アンリマティス)という、世代間の対決を最大の焦点と見なしています。そして、その二強に、今年G1で確固たる実績を残した古馬(リードアーティスト、ダンシングジェミナイ)がどう割って入るか。この世代間の力関係こそが、2025年ムーランドロンシャン賞を読み解く上での中心的なテーマとなるでしょう。
過去のデータを振り返ると、A.ファーブル調教師の存在感が際立ちます。このレースで通算8勝を挙げており、これは歴代最多記録です。直近10年でも3勝をマークしており、その手腕は驚異的です 。この事実は、同厩舎の
アルカントールにとって強力な追い風となります。
過去の勝ち馬の臨戦過程を見ると、ドーヴィル競馬場で行われるG1ジャックルマロワ賞が最も重要なステップレースであることが分かります 。このレースで好走した馬が、本番のムーランドロンシャン賞でも結果を残す傾向が顕著です。このデータは、ジャックルマロワ賞で3着と好走した
ダンシングジェミナイの評価を高めるものです。また、ロザリオンが当初の目標としていたことからも、このローテーションの重要性がうかがえます。
非常に興味深いデータとして、世界的名種牡馬であるDubawi産駒の成績が挙げられます。これまでのムーランドロンシャン賞において、Dubawi産駒は11頭が出走して未勝利という結果に終わっています 。今年の有力馬の一頭である
リードアーティストは、まさにそのDubawiを父に持つ馬です 。G1を制した実力馬である一方で、血統的にはこのレースと相性が良くないという統計的な矛盾が存在します。これは、単純な能力比較だけでは見えてこない、専門的な分析から導き出される重要な視点であり、リードアーティストの評価を再考させる要素となるかもしれません。
ここまでの分析を総合すると、2025年のムーランドロンシャン賞は、G1での実績で勝るロザリオン、舞台適性と斤量利のあるアンリマティスの二強を軸とした争いになる可能性が高いと見られます。しかし、レース当日の馬場状態が鍵を握るリードアーティストの存在、そして常に堅実な走りを見せるダンシングジェミナイも決して無視できない存在です。
これらの有力馬の最終的な序列を決定づけるのは、レース直前の馬場状態や、レース展開を大きく左右するゲート番(枠順)といった要素です。これらの最終的なファクターまでを考慮に入れた専門家の結論と、具体的な買い目については、以下の専門サイトにて公開されます。ぜひ、最終的なご判断の参考にしてください。
▼最終結論はこちらで公開▼ https://yoso.netkeiba.com/?pid=yosoka_profile&id=562&rf=pc_umaitop_pickup
川崎12R グリーンチャンネル…