凱旋門賞を占う最重要前哨戦、フォワ賞2025展望
世界最高峰のレース、凱旋門賞。その栄冠を目指す古馬たちにとって、避けては通れない最終関門が存在します。それが、毎年9月にパリロンシャン競馬場で行われるフォワ賞(G2)です 。本番と同じ2,400メートルの芝コースを舞台に行われるこの一戦は、単なるステップレースにとどまらず、各馬の仕上がり、コース適性、そして凱旋門賞での可能性を測るための、極めて重要な試金石として位置づけられています 。
その歴史を振り返れば、このレースの重要性は明らかです。近年では2019年にヴァルトガイストがフォワ賞を制し、その勢いのまま凱旋門賞で歴史的名牝エネイブルを破るという快挙を成し遂げました 。フォワ賞と凱旋門賞を同年に連覇した馬は、アッレフランス(1974年)、サガス(1984年)、そしてヴァルトガイストの3頭のみという事実は、このステップの過酷さと価値を物語っています 。この「凱旋門賞トライアルデー」の主役を担う一戦は、3週間後に控えたヨーロッパ競馬最大の祭典、総賞金500万ユーロを誇るカタール凱旋門賞の行方を占う上で、最も信頼性の高い指標となるのです 。
2025年9月7日に開催される今年のフォワ賞は、特に注目すべき物語性に満ちています 。昨年の凱旋門賞で3着、4着と好走した実力馬が再戦の舞台に臨み、悲願の凱旋門賞制覇を目指す日本からの有力馬が虎視眈々と頂点を狙い、ヨーロッパ各地のG1戦線で活躍してきた猛者たちが集結しました 。各馬がそれぞれの思惑を胸に秘めて挑むこの一戦は、凱旋門賞の馬券戦略を組み立てる上で、決定的なヒントを与えてくれることは間違いありません。
海外大手ブックメーカー15社 フォワ賞2025 オッズ徹底比較
国際的な大レースの力関係を最も客観的に映し出す鏡、それが海外大手ブックメーカーが提示するオッズです。専門家による詳細な能力分析、世界中の競馬ファンによる資金の投下、そして最新の情報を反映した数値は、各馬の勝利確率を冷徹に示します。ここでは、世界の競馬ベッティング市場をリードする15社のオッズを徹底的に比較し、その評価の傾向を分析します。この一覧表は、単なる数字の羅列ではなく、世界が各出走馬をどのように評価しているかを示す勢力図そのものです。
フォワ賞2025 主要ブックメーカーオッズ比較表
馬名 (Horse Name) | Paddy Power | William Hill | Sky Bet | RaceBets | Betfair Exchange | Bet365 | Coral | Ladbrokes |
ソシー (Sosie) | 5/2 (3.50) | 11/4 (3.75) | 9/4 (3.25) | 2.7 | 11/4 (3.75) | 9/4 (3.25) | 11/4 (3.75) | 11/4 (3.75) |
ロスアンゼルス (Los Angeles) | 11/4 (3.75) | 3/1 (4.00) | 3/1 (4.00) | 5.0 | 3/1 (4.00) | 3/1 (4.00) | 3/1 (4.00) | 3/1 (4.00) |
マップオブスターズ (Map Of Stars) | 5/1 (6.00) | 5/1 (6.00) | 5/1 (6.00) | 5.5 | 5/1 (6.00) | 5/1 (6.00) | 5/1 (6.00) | 5/1 (6.00) |
アルマカーム (Almaqam) | 11/2 (6.50) | 11/2 (6.50) | 11/2 (6.50) | 6.0 | 11/2 (6.50) | 11/2 (6.50) | 11/2 (6.50) | 11/2 (6.50) |
ビザンチンドリーム (Byzantine Dream) | 11/2 (6.50) | 13/2 (7.50) | 6/1 (7.00) | 5.0 | 6/1 (7.00) | 6/1 (7.00) | 13/2 (7.50) | 13/2 (7.50) |
アローイーグル (Arrow Eagle) | 8/1 (9.00) | 7/1 (8.00) | 7/1 (8.00) | 15.0 | 15/2 (8.50) | 7/1 (8.00) | 7/1 (8.00) | 7/1 (8.00) |
イレジン (Iresine) | 14/1 (15.00) | 25/1 (26.00) | 25/1 (26.00) | 21.0 | 22/1 (23.00) | 25/1 (26.00) | 25/1 (26.00) | 25/1 (26.00) |
モンサンミッシェル (Mont St Michel) | 50/1 (51.00) | 100/1 (101.00) | 100/1 (101.00) | 101.0 | 80/1 (81.00) | 100/1 (101.00) | 100/1 (101.00) | 100/1 (101.00) |
チーキーボーイ (Cheeky Boy) | 40/1 (41.00) | 66/1 (67.00) | 66/1 (67.00) | 51.0 | 66/1 (67.00) | 66/1 (67.00) | 66/1 (67.00) | 66/1 (67.00) |
注: オッズは2025年9月6日時点のものであり、変動する可能性があります。FanDuel Racing, DK Horse, TwinSpires, BetMGM Racebook, Caesars Racebookは主に米国市場に焦点を当てているため、本レースのオッズを提供していない場合があります。 データソース:
オッズ分析:ブックメーカーの評価から浮かび上がる勢力図
上記のオッズ比較表は、今年のフォワ賞における明確な勢力図を浮き彫りにしています。市場の評価は、大きく4つのグループに分かれていると分析できます。
まず、ソシーとロスアンゼルスが「二強」として明確なトップグループを形成しています。Paddy PowerやWilliam Hillをはじめとする主要ブックメーカーのほとんどが、この2頭を1番人気、2番人気に支持しており、オッズは概ね3.25倍から4.0倍の範囲に集中しています 。これは、昨年の凱旋門賞での上位入着という実績と、今シーズンのG1勝利という輝かしい戦績が市場から高く評価されていることの証です 。
その直後を追うのが、マップオブスターズ、アルマカーム、そしてビザンチンドリームから成る「強力な挑戦者グループ」です。彼らのオッズは6.0倍から7.5倍という非常に狭いレンジに密集しており、ブックメーカーがこの3頭を二強に肉薄する実力馬と見なしていることを示唆しています 。もし上位2頭に何らかの不安要素が生じれば、このグループから勝ち馬が生まれる可能性は極めて高いと市場は判断しています。
単独で中間層を形成しているのが、アローイーグルです。彼のオッズは8.0倍から9.0倍前後で、挑戦者グループからは一歩離されていますが、後続とは明確な差をつけています 。これは、破竹の4連勝という現在の勢いは高く評価されているものの、G1レベルの超一流馬との対戦経験が乏しい点が割引材料とされていることを示しています 。
そして最後に、ベテランのイレジンと、モンサンミッシェル、チーキーボーイが「大穴グループ」を構成します。特にこのレースを過去2度制しているイレジンは15.0倍から26.0倍とブックメーカーによって評価が分かれていますが、その実績から一定の警戒はされているようです 。他の2頭は100倍を超えるオッズがつけられており、客観的に見て勝利は厳しいと評価されています。
このオッズ構造が示すのは、「脆弱な階層構造」です。ソシーとロスアンゼルスが実績面でエリートであることは間違いないものの、彼らと挑戦者グループとのオッズ差がそれほど大きくない点は非常に興味深いポイントです。これは、ブックメーカーが上位2頭に対して絶対的な信頼を置いていないことの表れに他なりません。報道によれば、ソシーとロスアンゼルスは共に前走で「期待以下の走り」を見せており、その点が市場の評価に微妙な影を落としています 。つまり、現在のオッズは純粋な能力評価だけでなく、近走のパフォーマンスに対する「リスク」も織り込んだものなのです。これにより、上位人気馬にも不安が囁かれる、波乱の可能性を秘めた緊張感のあるレース構図が生まれています。
二強徹底解剖:昨年の雪辱を誓う実力馬
ソシー (Sosie): 雪辱を期すコースのスペシャリスト
伝説的な名馬シーザスターズを父に持ち、フランス競馬界の至宝アンドレ・ファーブル調教師が管理する4歳牡馬ソシー 。ファーブル師はこのフォワ賞で過去11勝という驚異的な記録を誇り、その手腕はこの馬を語る上で欠かせない要素です 。
ソシーの最大の強みは、パリロンシャン競馬場への圧倒的な適性です。今シーズンは同競馬場でガネー賞(G1)、イスパーン賞(G1)とG1を連勝し、その実力を証明しました 。さらに、昨年の凱旋門賞では強豪相手に4着と健闘しており、コースと距離への適性は疑いようがありません 。ブックメーカーが彼を1番人気に支持する最大の理由も、この「コース巧者」ぶりにあると言えるでしょう 。
しかし、彼には明確な不安要素も存在します。前走のコーラルエクリプスステークス(G1)では、見せ場なく6頭立ての最下位に敗退しました 。この敗戦が、慣れない英国サンダウン競馬場での一度きりの凡走だったのか、あるいは調子の下降線を示すサインなのか。その答えがこのフォワ賞で明らかになります。市場がそれでも彼を支持しているのは、ホームグラウンドであるパリロンシャンに戻れば本来の力を発揮できるという期待の表れです。
ロスアンゼルス (Los Angeles): 最高峰の実績を誇るアイルランドの刺客
アイルランドの強大なステーブル、エイダン・オブライエン厩舎が送り込む4歳牡馬ロスアンゼルス 。父は凱旋門賞馬を輩出したキャメロットです。今回は主戦のライアン・ムーア騎手が負傷離脱中のため、フランスを拠点とするトップジョッキー、クリストフ・スミヨン騎手が手綱を取ることも大きな注目点です 。
彼の持つポテンシャルは、出走馬中随一かもしれません。今シーズンのハイライトは、5月にカラ競馬場で行われたタタソールズゴールドカップ(G1)での勝利です 。そして何より重要なのは、昨年の凱旋門賞でソシーに1馬身半先着して3着に入っているという事実です 。直接対決での実績は、彼がソシーを上回る能力を秘めていることを示唆しています。
しかし、彼もまたソシーと同様に、近走のパフォーマンスに疑問符がついています。「期待以下の走り」と評された近2走は、ロイヤルアスコットで5着、カラ競馬場で断然人気を裏切る4着と、本来の走りからはほど遠い内容でした 。シーズン序盤に見せた圧倒的なパフォーマンスを取り戻せるかどうかが、勝利への鍵となります。
この二強対決は、「コースのスペシャリスト」対「最高レベルの実績馬」という古典的な構図です。ブックメーカーがわずかにソシーを優位と見ているのは、ロスアンゼルスの凱旋門賞での上位実績やG1勝利の格よりも、ファーブル調教師とパリロンシャン競馬場という鉄壁のコンビネーション、そしてソシー自身のコースへの深い親和性をより高く評価しているからでしょう。慣れ親しんだホームでこそ、ソシーは最高のパフォーマンスを発揮できる。市場はそう判断しているのです。
打倒二強へ:虎視眈々と王座を狙う挑戦者たち
二強に待ったをかけるべく、実力確かな挑戦者たちが牙を研いでいます。オッズが示す通り、彼らと上位2頭との実力差は僅かであり、展開一つで逆転は十分に可能です。
マップオブスターズ (Map Of Stars): 安定感抜群のチャレンジャー
ソシーと同じくシーザスターズを父に持つ4歳牡馬で、フランシス・アンリ・グラファール厩舎の管理馬です 。彼の持ち味は、どんな相手でも大崩れしない安定感にあります。今シーズンのガネー賞(G1)ではソシーにクビ差まで迫る2着と好走し、その実力がG1レベルにあることを証明しました 。前走のドイツ・バイエルン大賞(G1)でも2着に入っており、常に高いレベルでパフォーマンスを発揮できる信頼性の高い一頭です 。
アルマカーム (Almaqam): 英国からの期待馬
英国のエド・ウォーカー厩舎が、このフォワ賞を目標に調整を進めてきた期待の4歳牡馬 。父は欧州で数々のG1馬を送り出しているロペデヴェガです。5月にはサンダウン競馬場のG3を快勝しましたが、前走のヨークステークス(G2)では人気を裏切る敗戦を喫しました 。しかし、陣営の期待は依然として高く、ソフトな馬場を得意とすることから、レース当日の馬場状態が向けば一変する可能性を秘めています 。
ビザンチンドリーム (Byzantine Dream): 凱旋門賞の夢を乗せた日本の刺客
日本のエピファネイア産駒の4歳牡馬が、満を持してヨーロッパの舞台に挑みます 。日本のホースマンにとって凱旋門賞制覇は長年の悲願であり、その夢を背負う一頭です。彼の最大の武器は、その類まれなるスタミナです。サウジアラビアのレッドシーターフハンデキャップ(G2、3000m)を制し、日本の伝統ある長距離G1・天皇賞(春)(3200m)では勝ち馬にクビ差まで迫る2着と、長距離戦で圧倒的な強さを見せてきました 。今回、世界的な名手オイシン・マーフィー騎手を鞍上に迎えたことは、陣営の本気度の高さを物語っています 。
ビザンチンドリームの参戦は、このレースの戦術的な側面を根本から変える可能性があります。3000m超の距離で実績を上げてきた彼にとって、2400mという距離はむしろ短いくらいです。彼のスタミナを最大限に活かすためには、レースがよどみない厳しいペースで流れることが不可欠です。そのため、マーフィー騎手は自らペースを作るか、あるいは他馬を促してハイペースな展開に持ち込む戦略を取ることが予想されます。これは、ガネー賞(2100m)やイスパーン賞(1850m)といった、やや短い距離で最高のパフォーマンスを見せてきたソシーのような馬にとって、スタミナを問われる厳しい展開となり、レースの様相を一変させる重要な要素となるでしょう 。
軽視禁物!レースをかき乱す可能性を秘めた伏兵
上位人気馬に注目が集まる中、レース展開や馬場状態次第では、彼らを脅かす可能性を秘めた馬も存在します。
アローイーグル (Arrow Eagle): 怒涛の連勝で駆け上がってきた新星
フランスの名伯楽ジャン=クロード・ルジェ調教師が手掛けるこの4歳牡馬は、現在最も勢いに乗る一頭です 。特筆すべきは、現在4連勝中というその戦績です。条件戦から着実にステップアップし、前走のシャンティイ大賞(G2)ではついに重賞タイトルを手にしました 。今回は相手関係が一気に強化されますが、レースを使うごとに強くなるその成長力と、勝利の勢いは決して侮れません。市場の評価以上に手強い相手となる可能性を秘めています。
イレジン (Iresine): このレースを知り尽くしたベテラン王者
8歳という年齢ながら、今なお第一線で活躍を続ける古豪 。彼は2022年と2024年(昨年)のフォワ賞を制しており、まさにこのレースのスペシャリストです 。せん馬であるため、規定により凱旋門賞への出走資格はありません 。つまり、凱旋門賞を目指す他の有力馬たちとは異なり、彼にとってはこのフォワ賞こそがシーズンのクライマックスであり、最大の目標なのです。
この事実は、レース展開に非常に興味深い影響を与える可能性があります。凱旋門賞という大目標を控える陣営は、ここで勝ちつつも馬に過度な負担をかけない「完璧なレース」を望むかもしれません。しかし、イレジン陣営にはそのような制約は一切ありません。勝利のためだけに、全ての力を出し切るアグレッシブなレース運びを選択することができます。彼が序盤から積極的にレースを動かすようなことがあれば、有力馬たちのリズムを狂わせ、大波乱を演出する「スポイラー(攪乱者)」となる可能性も十分に考えられます。
結論:凱旋門賞への挑戦権は誰の手に?
今年のフォワ賞は、実績で勝る二強、ソシーとロスアンゼルスが、共に近走の不振から立ち直れるかを問われる一戦となります。海外ブックメーカーのオッズは、彼らの脆弱性を見抜き、マップオブスターズ、アルマカーム、そしてスタミナ自慢のビザンチンドリームといった強力な挑戦者たちを僅差の評価で追走させています。
レースの鍵は、二強がその絶対的な能力の違いを見せつけて復活を遂げるのか、それとも彼らの不安が露呈し、挑戦者たちに扉を開いてしまうのかという点に集約されます。そこに、日本のステイヤーがもたらすであろう厳しいペース、そして凱旋門賞を度外視して勝利のみを目指すベテランの不気味な存在が絡み合い、予測困難でスリリングなレースとなることは必至です。凱旋門賞への最も重要な挑戦権を手にするのは、果たしてどの馬なのでしょうか。
本記事では海外ブックメーカーの動向と各馬の客観的なデータを基に、フォワ賞2025の勢力図を徹底分析しました。ソシーとロスアンゼルスの二強対決の行方、そして日本からの刺客ビザンチンドリームの可能性まで、レースの鍵を握る要素は多岐にわたります。この詳細な分析を踏まえた上での最終的な予想の結論、そして専門家による印と具体的な買い目については、以下のリンクからnetkeiba.comでご確認ください。
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