夏の札幌開催を彩る名物スプリント競走、UHB賞。実力伯仲のスプリンターが集うこのレースは、毎年多くの競馬ファンを悩ませ、そして同時に熱狂させてきました。なぜなら、このレースは単なる短距離戦ではなく、一筋縄ではいかない「高配当メーカー」として知られているからです。
その言葉を裏付けるように、過去10年の3連単平均配当は95,315円という驚異的な数字を記録しています 。近年もその傾向は変わらず、2023年は140,100円 、そして2021年には286,110円という特大万馬券が飛び出しました 。これは単なる偶然の産物ではありません。UHB賞が、他のレースとは一線を画す独自の傾向と難解さを持っていることの何よりの証明です。
そして迎える2024年。今年もまた、競馬ファンの腕が鳴るような興味深いメンバー構成となりました。この札幌芝1200mという特殊な舞台で、昨年のしらかばステークスを圧巻の末脚で制したコース巧者ゾンニッヒ 。同じく札幌1200mでの勝利経験を持つ
クファシル 。オープンクラスで確固たる実績を誇るスプリントの強豪
バースクライは、今回が初の札幌参戦 。そして、ダート路線から芝のスプリント戦へ、異例の挑戦状を叩きつけた
ジャスティンアース 。役者は揃いました。問われるのは「どの馬が最も強いか」ではなく、「この特異なレースを制する資格を持つのはどの馬か」という一点です。
本記事では、この混沌としたレースを解き明かすため、過去の膨大なデータを徹底的に分析。そこに隠された「3つの鉄則」を導き出しました。この鉄則を羅針盤とすることで、荒れる夏のスプリント戦から真の有力馬を見つけ出し、的中に近づくための道筋を示します。
一見するとカオスに満ちたUHB賞ですが、その結果を丹念に紐解くと、無視できない明確なパターンが浮かび上がってきます。ここでは、過去10年のレースデータから導き出された、馬券戦略の根幹を成す3つの重要な法則を解説します。
UHB賞を攻略する上で、まず心に刻むべき最も重要な鉄則は「1番人気を過信しない」ことです。データは、このレースがいかに上位人気にとって厳しい戦いであるかを如実に物語っています。
過去10年間で1番人気が勝利したのはわずか3回。勝率は30.0%に留まり、3着以内に絡む確率を示す複勝率ですら40.0%~50.0%という低水準です 。これは、他のレースと比較しても著しく低い数値であり、1番人気というだけで軸馬に据えるのは極めて危険な戦略と言わざるを得ません。
その一方で、驚くべき好成績を収めているのが4番人気から6番人気に支持される「中穴」グループです。この人気帯の馬は、過去10年で3勝を挙げ、連対率は36.7%、複勝率は43.3%に達します 。これは、1番人気を上回るほどの好走率であり、馬券の妙味がこのゾーンに集中していることを示唆しています。
近年の結果を見ても、この傾向は明らかです。
なぜこれほどまでに波乱が起きるのでしょうか。それは、UHB賞がオープンクラスというハイレベルなメンバーが集うレースであり、かつ、後述する札幌芝1200mというコースが極めてトリッキーであることに起因します。純粋な能力の優劣以上に、レース当日の展開やコース取り(=トリップ)が結果を大きく左右するため、少し評価を落とした実力馬が完璧なレース運びで上位人気馬を打ち負かすという構図が生まれやすいのです。したがって、UHB賞における鉄則とは、単に「穴を狙う」のではなく、「1番人気を疑い、4番人気から8番人気あたりに潜む真の実力馬を探し出す」ことにあるのです。
UHB賞 過去の波乱度と人気別成績
| 年 | 波乱度 | 3連単配当 | 1着馬人気 | 2着馬人気 | 3着馬人気 | |
| 2024年 | 中荒 | 54,000円 | 5番人気 | 4番人気 | 1番人気 | |
| 2023年 | 大荒 | 140,100円 | 2番人気 | 4番人気 | 10番人気 | |
| 2022年 | 大荒 | 145,690円 | 3番人気 | 10番人気 | 2番人気 | |
| 2021年 | 大荒 | 286,110円 | 1番人気 | 3番人気 | 16番人気 | |
| 2020年 | 中荒 | 41,710円 | 4番人気 | 6番人気 | 1番人気 | |
| 2019年 | 本命 | 7,700円 | 1番人気 | 3番人気 | 4番人気 | |
| 2018年 | 大荒 | 187,920円 | 4番人気 | 5番人気 | 8番人気 | |
| 2017年 | 本命 | 16,730円 | 4番人気 | 2番人気 | 1番人気 | |
| 2016年 | 中荒 | 43,460円 | 3番人気 | 5番人気 | 6番人気 | |
| 2015年 | 本命 | 29,730円 | 1番人気 | 6番人気 | 2番人気 | |
| 出典: |
競馬の予想において、枠順は極めて重要なファクターです。しかし、UHB賞における枠順の傾向は、一般的なセオリーを根底から覆す、驚くべき特徴を示しています。
まず、UHB賞の過去10年のデータを直視してみましょう。最も顕著な成績を残しているのは「8枠」です。勝率15.0%、連対率(2着以内に入る確率)に至っては35.0%という、他の枠を圧倒する数値を叩き出しています 。これは、馬券に絡む確率が極めて高いことを意味し、8枠に入った馬はそれだけで評価を上げるべきと言えるでしょう。
しかし、ここに一つの矛盾が生じます。札幌芝1200mの一般的なコース解説では、「内枠が断然有利」であり、「8枠はハッキリ不利」とされているのです 。なぜ、セオリーと実際のレース結果がこれほどまでに乖離するのでしょうか。
その答えは、UHB賞特有のレースの質に隠されています。
実際に2023年は8枠のカルネアサーダが2着 、2021年も8枠のタイセイアベニールが2着に入っており 、この枠がコンスタントに好走馬を輩出している事実が、この分析を強力に裏付けています。
最後に注目すべきは、年齢の傾向です。UHB賞では、特定の年齢の馬が顕著な強さを見せています。その主役となるのが「5歳馬」です。
過去10年のデータを見ると、5歳馬は6勝を挙げており、これは他のどの世代よりも多い数字です 。勝率、連対率、複勝率のいずれにおいてもトップクラスの成績を維持しており、このレースを攻略する上で5歳馬を馬券の中心に据えることは、データに基づいた正攻法と言えるでしょう 。
5歳馬に次いで好成績なのが「4歳馬」です。勝利数こそ5歳馬に及びませんが、連対率や複勝率では非常に高い数値を記録しており、2着・3着候補として極めて優秀です 。一方で、3歳馬や6歳以上の馬は勝ち切るまでに至らないケースが多く見られます。
この年齢バイアスの背景には、レースが要求する能力の質が関係していると考えられます。
結論として、馬券を組み立てる際は、心身ともに充実期にある「5歳馬」を勝ち馬候補の筆頭とし、成長著しい「4歳馬」を連下の有力候補として組み合わせるのが、最も的中に近い戦略となるでしょう。
UHB賞の予想において、これまで見てきたデータ傾向の「なぜ」を理解するためには、舞台となる札幌競馬場・芝1200mコースの特性を深く知る必要があります。このコースのユニークな形状が、UHB賞の波乱に満ちたレース展開を生み出す元凶となっているのです。
コースの最大の特徴は、以下の4点に集約されます。
これらのコース特性が、前章で述べた「3つの鉄則」とどのように結びついているのかを整理しましょう。
ここまで分析してきた「3つの鉄則」とコース特性を踏まえ、今年の有力馬たちを評価していきます。データという客観的なフィルターを通して、どの馬が最も勝利に近い存在なのかをジャッジします。
有力馬評価マトリックス
| 馬名 | 総合評価 | コース適性 | 距離適性 | 年齢傾向 | 枠/脚質 | 近走評価 |
| ゾンニッヒ | A | ◎ | ◎ | △ | ◎ | B |
| バースクライ | A | ? | ◎ | ○ | △ | A |
| クファシル | B+ | ○ | ○ | ○ | ○ | B |
| ジャスティンアース | C+ | △ | ? | ○ | △ | A (ダート) |
| 評価: ◎=最適, ○=合致, △=懸念あり, ?=未知数 |
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まさに「札幌芝1200mの申し子」と呼ぶべき存在です。昨年、同じ舞台で行われたしらかばステークスを、最後方から大外一気の豪脚で差し切った内容は圧巻の一言 。後方でじっくり脚を溜め、大きなコーナーで加速して前の馬を飲み込むというそのレーススタイルは、本稿で導き出したUHB賞の勝利パターンそのものです。騎乗した武豊騎手が「ためれば切れる馬。北海道の1200メートルは合いますね」とコメントした通り、コース適性は出走馬中随一でしょう 。懸念材料は6歳という年齢が、データ上の中心(5歳)からわずかに外れる点 。しかし、それを補って余りあるコース適性を誇り、特に外枠を引いた場合の信頼度は絶大です。
現役屈指のスプリント能力を持つ強豪。オープンクラスや重賞で常に上位争いを演じてきた実績は、メンバーの中でも頭一つ抜けています 。4歳という年齢も、データ上は好走確率の高いグループに合致します 。最大の強みは、その純粋なスピード能力と完成度の高さです。しかし、最大の弱点もまた明確です。それは、札幌コースの経験が全くないこと 。中団あたりでレースを進めることが多い同馬にとって、内枠を引いた場合に札幌特有の混戦に巻き込まれるリスクは無視できません。持っている能力は間違いなくG1級ですが、その能力をこの特殊な舞台で100%発揮できるかどうか。枠順と当日のレース運びが全てを左右する、最も評価の難しい一頭です。
この馬もまた、札幌芝1200mでの勝利経験を持つコース巧者の一頭です。2024年のワールドオールスタージョッキーズ第1戦を勝利しており、舞台適性に疑いの余地はありません 。4歳という年齢もデータと合致しており、好位からレースを進められる自在な脚質も魅力です 。バースクライのような絶対的なスプリント能力という点では一歩譲るかもしれませんが、コース適性、年齢、レースセンスといった総合力では決して引けを取りません。重賞ではワンパンチ足りない競馬が続いていますが 、この舞台であれば十分に主役を張れる資格を持っています。データに基づけば、非常に堅実な軸馬候補と言えるでしょう。
今年のUHB賞における最大の「Xファクター」です。近走はダートの中距離路線で連勝を飾り、本格化の兆しを見せていますが、今回は芝の1200m戦への初挑戦となります 。一見すると無謀な挑戦にも思えますが、無視できない要素も存在します。まず、4歳という年齢は好走データに合致 。そして、過去に札幌の芝コースを経験している点はプラス材料です(2歳時に芝1500m、1800mに出走)。さらに、ダートで培ったパワーは、力の要る洋芝で生きる可能性があります。1200mのスピードに対応できるかは全くの未知数ですが、このレースが波乱を呼ぶとすれば、このような異端の挑戦者がその引き金を引くのかもしれません。勝ち切るまでは難しくとも、高配当を狙う馬券には組み込んでおきたい、非常に興味深い一頭です。
本記事では、過去の膨大なデータとコースの特性からUHB賞を攻略するための3つの鉄則を導き出しました。
これらの分析を今年の出走馬に当てはめると、レースの構図は「コース適性で勝るゾンニッヒとクファシル」対「絶対能力で勝るバースクライ」という図式に、異色の挑戦者ジャスティンアースがどう絡むか、という点に集約されます。最終的な優劣を判断する上で、各馬の仕上がり状態はもちろん、どの馬が有利な外枠を引き当てるかという「枠順」が、最後の重要なピースとなるでしょう。
これらの分析を踏まえ、最終的な印、そして具体的な買い目については、以下のリンクから、私の最終結論をご確認ください。