梅雨時の川崎競馬場を舞台に、3歳牝馬たちの世代最強を決定する一戦、それが「関東オークス(JpnII)」です。1965年の創設以来、数々の名牝を送り出してきたこのレースは、単なる重賞競走ではありません。南関東牝馬三冠の最終関門であり、全国の地方競馬の強豪牝馬が集う「グランダム・ジャパン」3歳シーズンのクライマックスでもある、まさに女王決定戦です 。2008年には白毛のアイドルホース・ユキチャンが8馬身差の圧勝で初の重賞制覇を飾り、競馬史にその名を刻んだことも記憶に新しいでしょう 。
しかし、その華やかな歴史とは裏腹に、馬券的な観点からは非常に難解なレースとして知られています。川崎競馬場特有のタイトなコーナーを6回も通過する2100mというタフなコース設定 。中央競馬(JRA)で実績を積んできたエリート馬と、地元南関東のコースを知り尽くした叩き上げの馬たちが激突する構図は、毎年多くの競馬ファンを悩ませます。
そこで、本記事ではこの複雑な一戦を解き明かすため、過去10年間の膨大なデータを徹底的に分析。そこから浮かび上がってきた、馬券的中に直結する「3つの黄金法則」を導き出しました。今年の出走が想定されるJRAの素質馬メモリアカフェや、南関東の女王ベルグラシアスといった有力馬たちが、この法則にどう当てはまるのか。データに基づいた確かな視点から、2025年の関東オークスを完全攻略します。
予想のポイントに入る前に、まずはこのレースの特殊性を理解することが不可欠です。関東オークスを攻略する鍵は、その歴史的背景とコース形態に隠されています。
関東オークスは、1965年に南関東所属の3歳牝馬限定の重賞としてスタートしました 。その後、2000年に中央・地方の所属馬が垣根を越えて参戦する交流競走となり、ダートグレード競走に認定。2006年にはJpnIIへと格上げされ、3歳ダート牝馬路線の頂点を決める重要な一戦としての地位を確立しました 。
現在では、浦和・桜花賞、大井・東京プリンセス賞に続く「南関東牝馬三冠」の最終戦に位置づけられており、まさに3歳女王の座をかけた最終決戦の舞台となっています 。
このレースを最も特徴づけているのが、川崎競馬場のダート2100mというコースです。これは単なる長距離戦ではありません。1周1200mの小回りコースを1周半以上、合計6つものタイトなコーナーをクリアしなければならない、スタミナと操縦性の両方が極限まで問われる特殊な舞台なのです 。
スタートは向正面の2コーナー出口付近。最初のコーナーまでは約400mと比較的距離があるため、序盤の位置取り争いは激しくなりすぎない傾向にあります。しかし、勝負の分かれ目となるのは、2周目の向正面から最終コーナーにかけて。ここでペースが一気に上がった際に、息切れせずに追走し、なおかつ最後の直線で末脚を伸ばすだけの余力を残せるかどうかが、勝敗を大きく左右します 。騎手の巧みなペース判断と、馬自身の機動力、そして何より2100mを走り切る底力が試される、真の実力馬でなければ勝ち切れないコースと言えるでしょう。
ここからは、過去10年(2015年〜2024年)のレース結果を基に、馬券戦略の核となる3つの重要ポイントを解説します。一見すると複雑なこのレースにも、データは明確な傾向を示しています。
まず、揺るがしようのない事実から確認します。関東オークスの勝ち馬を探すなら、JRA所属馬から選ぶのが絶対的なセオリーです。
過去10年間、このレースを制したのはすべてJRA所属馬でした 。出走頭数に対する勝率や連対率(2着以内率)、複勝率(3着以内率)を見ても、地方所属馬を大きく引き離しており、その実力差は明白です。馬券の軸、特に1着候補はJRA勢から選ぶのが最も確実なアプローチとなります。
表1:所属別成績(過去10年:2015-2024年)
| 所属 | 1着 | 2着 | 3着 | 4着以下 | 勝率 | 連対率 | 3着内率 |
| JRA | 10 | 5 | 4 | 21 | 25.0 | 37.5 | 47.5 |
| 南関東 | 0 | 5 | 5 | 58 | 0.0 | 7.4 | 14.7 |
| その他地方 | 0 | 0 | 1 | 21 | 0.0 | 0.0 | 4.5 |
出典: のデータを基に作成
しかし、この表を注意深く見ると、もう一つの重要な真実が浮かび上がってきます。それは、JRA勢が1着から3着までを独占した「馬券圏内独占」は、過去10年で2023年のたった1回しかないという事実です 。つまり、残る9年間では、必ず地方所属馬が2着か3着に食い込んでいるのです 。
これが関東オークスにおける馬券の妙味です。JRAの勝ち馬は人気になりやすく単勝配当は期待薄でも、人気薄の地方馬が2、3着に突っ込んでくることで、馬連や3連複、3連単といった券種で思わぬ高配当が生まれます。実際に2024年は6番人気の地方馬(船橋所属)が2着、8番人気の地方馬(高知所属)が3着に入り、波乱を演出しました 。
では、どの地方馬を狙えばいいのか。その答えもデータが示しています。
このレースの戦略は、単に強いJRA馬を見つけるだけでは不十分です。競馬ファンがJRAの圧倒的な勝率に目を奪われ、その結果として実力のある地方馬のオッズが不当に高くなる、という市場の心理的な歪みを突くことが重要です。川崎2100mという特殊な舞台を知り尽くした地方の強豪が、JRAの素質馬を最後の直線で逆転するシーンは十分に考えられます。勝利への最短ルートであるJRA馬を軸に据えつつ、高配当の使者となる地方馬を相手に加える。これが関東オークスで利益を出すための、最も洗練された戦略です。
JRA勢が中心となることは間違いありませんが、その中からどの馬を軸に選ぶべきか。その選別には、2つの非常に強力なフィルターが存在します。「前走の着順」と「枠順」です。
キャリアの浅い3歳牝馬にとって、直近のレース内容は能力を測る上で最も重要な指標となります。特に関東オークスでは、JRA所属馬の前走着順に驚くほど明確な傾向が見られます。
過去10年のデータを見ると、JRA馬で馬券になった馬の多くは、前走で1着または3着だった馬に集中しています。特に前走3着馬は複勝率が80%を超えるという驚異的な安定感を誇ります 。
一方で、奇妙なことに前走2着だったJRA馬は、過去10年で一度も馬券に絡んでいません 。これは偶然と片付けるにはあまりにもはっきりとした傾向であり、予想する上で絶対に見逃してはならない「危険なサイン」と言えるでしょう。
表2:JRA所属馬の前走着順別成績(過去10年:2015-2024年)
| 前走着順 | 1着 | 2着 | 3着 | 4着以下 | 勝率 | 連対率 | 3着内率 |
| 1着 | 5 | 3 | 1 | 9 | 27.8 | 44.4 | 50.0 |
| 2着 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
| 3着 | 2 | 1 | 2 | 1 | 33.3 | 50.0 | 83.3 |
| 4着 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0.0 | 0.0 | 50.0 |
| 5着 | 1 | 0 | 0 | 1 | 50.0 | 50.0 | 50.0 |
| 6着以下 | 2 | 1 | 0 | 7 | 20.0 | 30.0 | 30.0 |
出典: のデータを基に作成
この表を見れば、JRA馬の中から軸馬を選ぶ際の基準は一目瞭然です。前走1着か3着の馬を高く評価し、前走2着の馬は人気でも評価を割り引く。このシンプルなルールが、的中への近道となります。
もう一つの重要な要素が枠順です。一般的に小回りコースは内枠が有利とされますが、関東オークスにおいてはその常識は通用しません。むしろ、中枠から外枠が圧倒的に有利というデータが出ています。
過去10年、5枠から8枠の馬が必ず連対しており、勝ち馬10頭中9頭がこのゾーンから出ています 。一部の古いデータでは内枠有利を示唆するものもありますが 、近年のより詳細な分析では外枠の優位性は揺るぎません 。
表3:枠順別成績(過去10年:2015-2024年)
| 枠番 | 1着 | 2着 | 3着 | 勝率 | 連対率 | 3着内率 |
| 1枠 | 0 | 1 | 2 | 0.0 | 4.5 | 13.6 |
| 2枠 | 0 | 1 | 0 | 0.0 | 7.7 | 7.7 |
| 3枠 | 0 | 1 | 1 | 0.0 | 7.1 | 14.3 |
| 4枠 | 1 | 0 | 1 | 7.7 | 7.7 | 15.4 |
| 5枠 | 3 | 2 | 2 | 18.8 | 31.3 | 43.8 |
| 6枠 | 2 | 2 | 1 | 13.3 | 26.7 | 33.3 |
| 7枠 | 2 | 2 | 1 | 11.8 | 23.5 | 29.4 |
| 8枠 | 2 | 1 | 2 | 11.8 | 17.6 | 29.4 |
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出典: のデータを基に作成
この外枠有利の傾向は、単なる偶然ではありません。6つものコーナーを回るこのレースでは、内枠の馬は道中で他馬に包まれてしまい、動きたい時に動けなくなるリスクが非常に高くなります 。一方で外枠の馬は、常に馬群の外をスムーズに追走でき、自分のタイミングでスパートをかけやすいという戦術的な自由度を享受できます。2100mの長丁場において、無駄な消耗を避けてスムーズにレースを進められるアドバンテージは計り知れません。
つまり、「前走好走」という能力の証明と、「外枠」という戦術的有利。この2つの条件が揃った馬こそが、最も信頼できる軸馬候補となるのです。これは、能力(実績)と機会(展開利)が噛み合った、成功確率の高い組み合わせと言えるでしょう。
最後のポイントは、血統です。特にこの関東オークスでは、特定の血統が驚異的な強さを発揮します。それは、パワーと持続力に秀でた米国ダート血統です。
川崎のダートコースは砂が深く、時計がかかりやすいのが特徴です。軽いスピードや瞬発力だけでは通用せず、馬力で砂を掴み、最後までバテずに走り切るパワーとスタミナが求められます 。このコース特性が、まさにアメリカのダート競馬で活躍するために育種されてきた血統と完璧に合致するのです。
その中でも特に注目すべきは、米国の歴史的名馬**A.P. Indy(エーピーインディ)**の系統です。近年、このレースを制したグランブリッジ(父シニスターミニスター)、ラブパイロー(父パイロ)、ラインカリーナ(父パイロ)、そして2025年の有力候補メモリアカフェの父であるナダルも、すべてこのA.P. Indyの血を引いています 。彼らの産駒は、父から受け継いだ強靭なパワーと粘り強さを武器に、このタフなレースで他を圧倒する走りを見せています。
その他にも、2024年の勝ち馬アンデスビエントの父ドレフォンや、過去の勝ち馬を輩出したヘニーヒューズ、サウスヴィグラスといった種牡馬も、典型的な米国パワー血統です 。
表4:近年の関東オークス好走馬と注目血統
| 年 | 馬名 | 着順 | 父 | 父の系統 |
| 2024 | アンデスビエント | 1着 | ドレフォン | Storm Cat系 (米国型) |
| 2023 | パライバトルマリン | 1着 | Malibu Moon | A.P. Indy系 (米国型) |
| 2022 | グランブリッジ | 1着 | シニスターミニスター | A.P. Indy系 (米国型) |
| 2021 | ウェルドーン | 1着 | ヘニーヒューズ | Storm Cat系 (米国型) |
| 2020 | レーヌブランシュ | 1着 | クロフネ | Deputy Minister系 (米国型) |
| 2019 | ラインカリーナ | 1着 | パイロ | A.P. Indy系 (米国型) |
| 2017 | クイーンマンボ | 1着 | マンハッタンカフェ | Sunday Silence系 (日本型) |
出典: のデータを基に作成
この血統フィルターを今年の有力馬にかけると、評価が大きく変わってきます。
血統の優位性は、単なるジンクスではありません。アメリカのダート競馬で求められる資質(パワー、持続力)と、川崎2100mというコースが馬に要求する資質が、完全に一致しているからこそ生まれる必然的な結果です。馬柱を見る際は、父馬の名前に注目し、その血が米国のパワフルなダート血統に連なるかどうかを確認することが、予想の精度を格段に上げるための最後の鍵となります。
これまでに解説した「3つの黄金法則」を基に、今年の有力候補を最終ジャッジします。
関東オークスを攻略するための3つの黄金法則を、改めてまとめます。
これらの法則を総合的に判断し、各馬の能力と適性を吟味することで、的中への道筋は見えてきます。
以上の分析を踏まえた私の最終的な結論、印を打った馬とその買い目については、netkeiba『ウマい馬券』にて独占公開しています。レース当日の最終的な馬場状態やパドック気配も加味した結論となりますので、ぜひ以下のリンクからご確認ください!