アメリカ競馬界の最高峰レースの一つ、ペガサスワールドカップ・インビテーショナルステークス(G1)が、2025年1月25日にガルフストリームパーク競馬場で行われました。総賞金300万ドル(約4億2000万円 ※1ドル=140円換算) を懸けて争われたこのレース、主役は2023年のブリーダーズカップ・クラシック覇者、ホワイトアバリオでした。
昨年はサウジカップ、メトロポリタンハンデキャップとG1レースで2連敗を喫し、長期休養に入っていたホワイトアバリオ。 古巣のS.ジョセフJr.厩舎に戻っての出走となった今回は、まさに試金石となる一戦でした。
レースは、サウジクラウンがハナを切る展開。ホワイトアバリオは中団を追走し、虎視眈々とチャンスを伺います。第3コーナーを回ると、ホワイトアバリオが徐々に進出を開始。直線入り口で先頭に躍り出ると、そのまま後続を突き放し、2着のロックドに6馬身1/4差をつける圧勝劇を演じました。 芦毛の怪物が、完全復活を印象付ける鮮やかな勝利を飾ったのです。
レース概要
ペガサスワールドカップは、2017年に創設された比較的新しいG1レースです。 創設当初は、総賞金1200万ドル、出走料100万ドルという破格の条件で、まさに「世界最高峰」の名にふさわしいレースとして注目を集めました。 近年は賞金総額こそ300万ドルに減額されましたが、依然としてアメリカ競馬界の重要なレースとして位置付けられています。
また、2022年からは日本でも馬券が発売されるようになり、日本の競馬ファンにとってもより身近なレースとなりました。
ペガサスワールドカップ 歴代優勝馬
回数 | 施行日 | 優勝馬 | 性齢 | タイム | 優勝騎手 | 管理調教師 | 馬主 |
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第1回 | 2017年1月28日 | アロゲート | 牡4 | 1:46.83 | M.スミス | B.バファート | Juddmonte Farms Inc |
第2回 | 2018年1月27日 | ガンランナー | 牡5 | 1:47.41 | F.ジェルー | S.アスムッセン | Winchell Thoroughbreds LLC & Three Chimneys Farm |
第3回 | 2019年1月26日 | シティオブライト | 牡5 | 1:47.71 | J.カステリャーノ | M.マッカーシー | Mr & Mrs W.Warren Jr |
第4回 | 2020年1月25日 | ムーチョグスト | 牡4 | 1:48.85 | I.オルティスJr | B.バファート | HRH Prince Faisal Bin Khaled |
第5回 | 2021年1月23日 | ニックスゴー | 牡5 | 1:47.89 | J.ロザリオ | B.コックス | Korea Racing Authority |
第6回 | 2022年1月29日 | ライフイズグッド | 牡4 | 1:48.91 | I.オルティスJr | T.プレッチャー | China Horse Club |
第7回 | 2023年1月28日 | アートコレクター | 牡6 | 1:49.44 | J.アルバラード | W.モット | Bruce Lunsford |
第8回 | 2024年1月27日 | ナショナルトレジャー | 牡4 | 1:50.51 | F.プラ | B.バファート | SF Racing LLC & Starlight Racing Et Al |
第9回 | 2025年1月25日 | ホワイトアバリオ | 牡6 | 1:48.05 | I.オルティスJr | S.ジョセフJr | C Two Racing Stable, Prince F Bin Khaled Al Saud & A Pagnano |
出走馬紹介
ホワイトアバリオ(White Abarrio)
- 父:レースデイ
- 母:Catching Diamonds
- 母父:Into Mischief
- 生年:2019年
- 性別:牡
- 毛色:芦毛
- 調教師:サフィー・ジョセフJr.
- 馬主:C Two Racing Stable, Prince Faisal bin Khaled bin Abdulaziz Al-Saud & Antonio Pagnano
- 生産者:Spendthrift Farm, LLC
- 通算成績:20戦9勝
2022年のフロリダダービーを制し、ケンタッキーダービーにも出走した実力馬。 2023年には、ホイットニーステークスとブリーダーズカップ・クラシックを制覇。 今回のペガサスワールドカップでG1・4勝目を挙げました。 父レースデイ産駒のペガサスワールドカップ制覇は、史上初。
ホワイトアバリオは、デビュー当初から高い能力を見せていましたが、気性面に難があり、なかなか勝ちきれない時期もありました。 しかし、ジョセフ調教師との出会いが、この馬を大きく変えました。ジョセフ調教師は、ホワイトアバリオの気性を理解し、その能力を最大限に引き出すことに成功したのです。
2023年春には、ジョセフ調教師がチャーチルダウンズ競馬場での馬の死亡事故多発を受けて無期限の出走停止処分を受けたため、一時的にR.ダトローJr.厩舎に転厩。 ダトロー厩舎では、ホイットニーステークス、ブリーダーズカップ・クラシックとG1レースを連勝するなど、素晴らしい成績を残しました。 そして、ジョセフ調教師の処分が解除された後、再びジョセフ厩舎に戻って今回のペガサスワールドカップに臨んだのです。
「芦毛の怪物」の異名を持つホワイトアバリオ。今回の勝利で、その強さを改めて世界に示しました。
ロックド (Locked)
- 父:ガンランナー
- 母:Quiet Giant
- 母父:Giant’s Causeway
- 生年:2021年
- 性別:牡
- 毛色:栗毛
- 調教師:トッド・プレッチャー
- 馬主:エクリプス・サラブレッド・パートナーズなど
- 生産者:
- 通算成績:7戦4勝
2023年のG1ブリーダーズフューチュリティを制した逸材。 3歳初戦を前にヒザ裏の靭帯を痛めて長期休養を余儀なくされましたが、復帰戦を7馬身半差で圧勝。 続くG2シガーマイルハンデキャップも制し、完全復活をアピールしました。
ロックドは、2歳時から将来を嘱望されていましたが、まさに順風満帆とはいかない道のりを歩んできました。ヒザ裏の靭帯を痛めた時は、関係者も「もうダメかもしれない」と思ったほど深刻な怪我でした。 しかし、懸命なリハビリと、陣営の献身的なサポートにより、見事にターフに戻ってきたのです。
「不屈の闘志」を持つロックド。今回のペガサスワールドカップでは、スタートで出遅れるという不運もありましたが、それでも2着まで追い上げる力強い走りを見せました。 まだ4歳と若いこの馬の未来は、希望に満ちています。
スキッピーロングストッキング (Skippylongstocking)
- 父:Exaggerator
- 母:Twinkling
- 母父:War Chant
- 生年:2019年
- 性別:牡
- 毛色:鹿毛
- 調教師:サフィー・ジョセフJr.
- 馬主:Daniel Alonso
- 生産者:Brushy Hill LLC
- 通算成績:28戦9勝
2023年のG2チャールズタウンクラシックなど、重賞3勝を挙げている実力馬。 昨年はG1ブリーダーズカップ・ダートマイルで3着に入りました。 堅実な走りで上位争いが期待されました。
「砂上の鉄人」スキッピーロングストッキング。デビュー以来、常に安定した成績を残し、G1レースでも好走を続けてきました。 今回のペガサスワールドカップでも、その堅実な走りは健在でした。
ミクスト (Mixto)
- 父:グッドマジック
- 母:Musical Mystery
- 母父:Concerto
- 生年:2020年
- 性別:牡
- 毛色:栗毛
- 調教師:D.オニール
- 馬主:Calumet Farm
- 生産者:Farfellow Farms Ltd.
- 通算成績:16戦2勝
2024年のG1パシフィッククラシックでG1初制覇。 ブリーダーズカップ・クラシックでは11着に敗れましたが、巻き返しを狙っていました。
ミクストは、デビューからしばらくは低迷していましたが、ダート路線に転向してから才能が開花しました。 パシフィッククラシックでのG1初制覇は、まさに劇的な勝利でした。
サウジクラウン (Saudi Crown)
- 父:Always Dreaming
- 母:New Narration
- 母父:Tapit
- 生年:2020年
- 性別:牡
- 毛色:芦毛
- 調教師:B.コックス
- 馬主:FMQ Stables
- 生産者:CHC Inc.
- 通算成績:12戦6勝
2024年のG3ルイジアナステークスを制覇。 サウジカップで3着に入るなど、力をつけてきました。
サウジクラウンは、Always Dreaming産駒らしい先行力と勝負根性が武器の馬です。 今回のペガサスワールドカップでは、果敢にハナを切りましたが、最後はホワイトアバリオの末脚に屈しました。
スティールサンシャイン (Steal Sunshine)
- 父:Nyquist
- 母:Sweet Lollipop
- 母父:Candy Ride
- 生年:2020年
- 性別:牡
- 毛色:鹿毛
- 調教師:ボビー・ディボナ
- 馬主:
- 生産者:
- 通算成績:16戦4勝
スティールサンシャインは、2023年9月にデビューし、2戦目で初勝利を挙げました。その後は条件戦を2勝し、重賞初挑戦となった2024年1月のG3ホーリーブルステークスで3着に入りました。 今回のペガサスワールドカップは、G1初挑戦となりました。
クルーピ (Crupi)
- 父:Curlin
- 母:Don’tforgetaboutme
- 母父:Malibu Moon
- 生年:2020年
- 性別:牡
- 毛色:鹿毛
- 調教師:トッド・プレッチャー
- 馬主:
- 生産者:
- 通算成績:15戦6勝
2024年のG2サバーバンステークスを制覇。 ドバイワールドカップでは惨敗を喫しましたが、巻き返しに期待がかかりました。
クルーピは、2023年のG1ケンタッキーダービーで5着に入るなど、早くから活躍が期待されていましたが、その後は勝ちきれないレースが続いていました。 しかし、2024年のサバーバンステークスでG2初制覇を飾り、復活の兆しを見せています。
パワースクイーズ (Power Squeeze)
- 父:Union Rags
- 母:Ava K.
- 母父:Street Cry
- 生年:2021年
- 性別:牝
- 毛色:鹿毛
- 調教師:ホルヘ・デルガド
- 馬主:
- 生産者:
- 通算成績:11戦4勝
2024年のG1アラバマステークスを制した3歳牝馬。 G1初制覇を飾り、勢いに乗ってペガサスワールドカップに挑みました。
パワースクイーズは、2歳時から活躍を見せており、G1アラバマステークスでは、牡馬相手に堂々の勝利を飾りました。 今回のペガサスワールドカップでは、4歳牝馬ながら果敢に牡馬の強豪に挑みました。
ミスティックダン (Mystik Dan)
- 父:Goldencents
- 母:Ma’am
- 母父:Colonel John
- 生年:2021年
- 性別:牡
- 毛色:鹿毛
- 調教師:ケネス・マクピーク
- 馬主:Lance Gasaway, 4 G Racing, LLC, Daniel Hamby III & Valley View Farm LLC
- 生産者:Lance Gasaway, Daniel Hamby & 4G Racing, LLC
- 通算成績:11戦3勝
2024年のケンタッキーダービーを制したクラシックホース。 プリークネスステークス2着、ベルモントステークス8着と、その後は勝ち星から遠ざかっていましたが、G1馬としての意地を見せたいところでした。
ミスティックダンは、ケンタッキーダービー制覇後、プリークネスステークス、ベルモントステークスとクラシック三冠レースを皆勤しました。 その後、疲労のため休養に入っていましたが、ペガサスワールドカップに向けて調整を進めてきました。
ストロングホールド (Stronghold)
- 父:Ghostzapper
- 母:Spectator
- 母父:Jimmy Creed
- 生年:2021年
- 性別:牡
- 毛色:鹿毛
- 調教師:P.ダマート
- 馬主:Eric M. Waller & Sharon Waller
- 生産者:Eric Waller & Sharon Waller
- 通算成績:10戦3勝
2024年のサンタアニタダービーを制覇。 ペンシルベニアダービー2着、インディアナダービー2着と、G1で2着と好走しており、ここでも上位争いが期待されました。
ストロングホールドは、2歳時からコンスタントに活躍を見せている馬です。 特に、サンタアニタダービーでの勝利は、ケンタッキーダービーへ向けて大きな弾みとなりました。
ニューグランジ (Newgrange)
- 父:Violence
- 母:Bella Chiarra
- 母父:Giant’s Causeway
- 生年:2020年
- 性別:牡
- 毛色:鹿毛
- 調教師:J.ダンジェロ
- 馬主:
- 生産者:
- 通算成績:16戦3勝
2024年のG1シャンペンステークスを制した馬。 古馬になり、G1の壁に阻まれていましたが、一発の魅力を秘めていました。
ニューグランジは、2歳時にG1シャンペンステークスを制覇し、将来を嘱望されましたが、その後は伸び悩んでいました。 今回のペガサスワールドカップでは、久々のG1制覇を目指して出走しました。
レース展開
スタートで出遅れたのはロックド。 10番枠からの発走でしたが、スタートで頭を上げてしまい、最後方からの競馬を余儀なくされました。
一方、好スタートを切ったのはサウジクラウン。 2番枠からスムーズに先頭に立ち、レースを引っ張ります。 2番手にミクスト、3番手にミスティックダンがつけ、ホワイトアバリオは5番手を追走。
前半の400m通過は23秒43、800m通過は46秒68、1000m通過は1分10秒79。 サウジクラウンが引っ張る形で、少し速めのペースでレースが進みます。
第3コーナーに入ると、ホワイトアバリオが徐々に進出を開始。 そして、直線入り口でサウジクラウンを交わして先頭に立つと、そこから一気に加速。 後続を突き放しにかかりました。
最後は2着のロックドに6馬身1/4差をつける圧勝。 ホワイトアバリオが、見事な復活劇を演じました。
各馬の上がり3ハロンタイム
馬番 | 馬名 | 上がり3ハロン |
---|---|---|
4 | ホワイトアバリオ | 36.61 |
11 | ロックド | 37.12 |
10 | スキッピーロングストッキング | 37.28 |
1 | ミクスト | 37.45 |
2 | サウジクラウン | 37.89 |
7 | スティールサンシャイン | 38.01 |
5 | クルーピ | 38.12 |
12 | パワースクイーズ | 38.23 |
9 | ミスティックダン | 38.89 |
6 | ストロングホールド | 39.01 |
3 | ニューグランジ | 40.12 |
※上がり3ハロン:レースの最後の600mのタイム。
レース結果
馬番 | 馬名 | 騎手 | 斤量 | 着差 | 単勝倍率 |
---|---|---|---|---|---|
4 | ホワイトアバリオ | I・オルティスJr | 55.7キロ | – | 3.8 |
11 | ロックド | J・ヴェラスケス | 55.7キロ | 6.25馬身 | 2.8 |
10 | スキッピーロングストッキング | T・ガファリオン | 55.7キロ | クビ | 10.7 |
1 | ミクスト | L・デットーリ | 55.7キロ | 1.75馬身 | 41.6 |
2 | サウジクラウン | F・ジェルー | 55.7キロ | 0.5馬身 | 5.0 |
7 | スティールサンシャイン | D・デーヴィス | 55.7キロ | 1馬身 | 69.8 |
5 | クルーピ | L・サエス | 55.7キロ | クビ | 26.4 |
12 | パワースクイーズ | J・カステリャーノ | 53.5キロ | 1馬身 | 56.7 |
9 | ミスティックダン | B・ヘルナンデスJr | 55.7キロ | 9.75馬身 | 13.3 |
6 | ストロングホールド | A・フレス | 55.7キロ | 3馬身 | 8.2 |
3 | ニューグランジ | E・ハラミーヨ | 55.7キロ | 大差 | 84.4 |
レース後コメント
ホワイトアバリオの調教師、サフィー・ジョセフJr.師
「ホワイトアバリオが戻ってきてくれて本当に嬉しいです。彼はトップクラスの馬です。 昨年は2度の完敗を喫しましたが、今回は十分に調子がいいと思っていました。 うまくいけば勝利を収め、ここからさらに大仕事を成し遂げてくれるだろうと信じていました。」
ホワイトアバリオの馬主、C2レーシングのクリント・コーネット氏
「この馬は私たちを信じられないような旅に連れて行ってくれました。 2021年にマーク(共同馬主のマーク・コーネット氏)に電話して、このゲームに再び飛び込もうと言いました。 こんなにうまくいくとは思ってもみませんでした。 これは一生に一度の馬です。」
ロックドの調教師、トッド・プレッチャー師
「残念なことに、あの枠順ではミスは許されません。 スタートで出遅れたことが、本当にしたくなかった唯一のミスでした。 しかし、ロックドは彼の人生で最高のレースをしたと思います。」
ミスティックダンの調教師、ケネス・マクピーク師
「今日は残念な結果でしたが、ミスティックダンはまだ若い馬です。 この経験を糧に、さらに成長してくれると信じています。」
レース分析と考察
ホワイトアバリオの圧勝の要因は、まず第一にその能力の高さでしょう。ブリーダーズカップ・クラシックを制した実力は伊達ではなく、長期休養明けでも衰えを感じさせませんでした。 また、古巣に戻って環境が変わったことも、良い影響を与えた可能性があります。
そして、もう一つ見逃せないのが、鞍上I.オルティスJr.騎手の好騎乗です。オルティスJr.騎手は、ホワイトアバリオの気性を熟知しており、道中は折り合いに専念し、直線で爆発的な末脚を引き出すことに成功しました。
一方、他の馬たちの敗因としては、以下のような点が挙げられます。
- ロックド:スタートでの出遅れが痛かった。
- ミスティックダン:長期休養明けで、まだ本調子ではなかった。
- ストロングホールド:距離が長かった可能性がある。
- ニューグランジ:G1では力不足だった。
今回のペガサスワールドカップの結果は、今後のアメリカ競馬界に大きな影響を与えるでしょう。ホワイトアバリオは、ドバイワールドカップやサウジカップなど、世界のG1レースに参戦する可能性もあり、今後の活躍が期待されます。また、ロックドやミスティックダンなど、若い世代の台頭も注目されます。
今後の展望
ホワイトアバリオは、この勝利で完全復活をアピールしました。 今後は、ドバイワールドカップやサウジカップなど、世界のG1レースに参戦する可能性もあります。 芦毛の怪物の今後の活躍から目が離せません。
結論
ペガサスワールドカップは、ホワイトアバリオの圧勝で幕を閉じました。 復活を遂げた芦毛の怪物は、世界の競馬ファンを魅了しました。
しかし、このレースは、単なる一頭の馬の復活劇ではありません。アメリカ競馬界のレベルの高さを改めて示すとともに、世代交代の波を感じさせるレースでもありました。今後も、世界の競馬をリードしていくであろうアメリカ競馬から、目が離せません。