近年、コーポレートガバナンス改革や株主重視の経営が進むにつれて、日本企業へのアクティビスト投資が注目されています 。アクティビスト投資家、いわゆる「物言う株主」は、企業価値向上を目的として、投資先企業の経営陣に対し、株主還元策の強化や事業ポートフォリオの見直しなどを要求することで知られています。
本稿では、日本企業に投資している著名なアクティビスト投資家をリストアップし、その投資先、投資目的、活動内容、そして成果や影響について解説していきます。さらに、日本企業に対するアクティビスト投資の現状と今後の展望についても考察します。
著名なアクティビスト投資家と投資先
日本企業に投資している著名なアクティビスト投資家は数多く存在しますが、ここでは、特に活発に活動している以下の投資家を取り上げます。
- オアシス・マネジメント・カンパニー
- シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ
- ダルトン・インベストメンツ
- ブランデス・インベストメント・パートナーズ
- バリューアクト・キャピタル
- タイヨウ・パシフィック・パートナーズ
- ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド
- レノ
- C&Iホールディングス
- オフィスサポート
- シティインデックスイレブンス
- 南青山不動産
- エスグラントコーポレーション
- ストラテジックキャピタル
- エフィッシモ・キャピタル・マネジメント
- アセット・バリュー・インベスターズ
- エリオット・マネジメント
- ファーツリー・パートナーズ
- ひびき・パース・アドバイザーズ
- 3Dインベストメント・パートナーズ
- LIMアドバイザーズ
- RMBキャピタル
- キング・ストリート・キャピタル・マネージメント
- スティール・パートナーズ
- アルファレオホールディングス
- マラソン・アセット・マネジメント
- シンフォニー・フィナンシャル・パートナーズ
- ユーソニアン・インベストメンツ
- コーンウォール・キャピタル
- MFSインベストメント・マネジメント
- アーチザン・パートナーズ
- タワー投資顧問
これらのアクティビスト投資家の投資先企業、投資目的・活動内容、投資アプローチ、具体的な活動事例、そして投資の成果や影響について、以下に詳しく見ていきましょう。
オアシス・マネジメント・カンパニー
オアシス・マネジメント・カンパニーは、セス・フィッシャー氏によって2002年1月に設立された香港を拠点とする投資会社です 。 アジアを中心としたグローバルな投資を行い、全ての市場サイクルにおいて、投資家に対して一貫して優れたリスク調整済みリターンを生み出すことを目標としています 。日本では、花王やフジテックなど、多くの企業に投資を行っています。
投資目的・活動内容
オアシスは、投資先企業の企業価値向上を目指し、経営陣との建設的な対話を通じて、企業戦略への貢献、株主還元策の強化などを提案しています 。
投資アプローチ
オアシスは、プライベート・エクイティを基盤とした長期的、建設的かつバリュー志向の投資アプローチをとっています 。
活動事例
- 花王へのエンゲージメント: オアシスは、花王に対し、競争力強化のための事業ポートフォリオの見直しや、株主還元策の強化などを提案しました 。
- フジテックへの株主提案: オアシスは、フジテックのガバナンス体制に問題があるとして、社外取締役の選任などを求める株主提案を行いました 。
シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ
シルチェスター・インターナショナル・インベスターズは、1994年に設立された、イギリス・ロンドンを拠点とする投資ファンドです 。財務分析を元に、割安性の高い銘柄に長期投資するバリュー投資を行っていることで知られており 、 日本市場では、旧村上ファンド系のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントに次ぐ規模を誇ります 。
投資目的・活動内容
シルチェスターは、国際株式に投資し、長期的なリターンを獲得することを目的としています 。 長期的な視点から企業価値の向上を目指し、投資先企業とは建設的な対話を行っています。
投資アプローチ
シルチェスターは、国際株式投資のみに特化した投資プログラムを提供しており 、長期保有を前提とした投資を行っています。
活動事例
- 地方銀行への株主提案: シルチェスターは、保有する日本の地方銀行4行(岩手銀行、滋賀銀行、京都銀行、中国銀行)の株主総会において、株主還元策の強化を求める株主提案を行いました 。
ダルトン・インベストメンツ
ダルトン・インベストメンツは、1998年に設立された、カリフォルニア州ロサンゼルスに拠点を置くバリュー投資に特化した投資運用会社です 。 長期投資に特化しており、主に日本株に投資を行っています 。
投資目的・活動内容
ダルトンは、投資先企業の資本効率の向上、取締役会・経営陣と株主との利益共有強化、そして多様性と独立性の高い取締役会の実現を目指しています 。
投資アプローチ
ダルトンは、バリュー投資の哲学に基づき、割安な企業に投資を行い、長期的な視点から企業価値の向上を目指しています 。
活動事例
- 戸田建設への株主提案: ダルトンは、戸田建設に対し、自己株式取得を求める株主提案を行いました 。
- 江崎グリコへの株主提案: ダルトンは、江崎グリコに対し、剰余金の配当、自己株式取得、役員報酬の見直しなどを求める株主提案を行いました 。
バリューアクト・キャピタル
バリューアクト・キャピタルは、2000年に設立された、サンフランシスコに拠点を置くアクティビスト投資ファンドです 。 穏健派として知られており 、投資先企業の発行済株式数の5~10%を取得し、経営陣の合意を得た上で取締役を派遣し、内部から財務体質の改善や事業の立て直しを行ないながら企業価値向上を目指しています 。
投資目的・活動内容
バリューアクトは、企業の戦略に貢献し、企業価値の向上を図ることを目的としています 。 具体的には、経営戦略の見直しや事業ポートフォリオの再編、株主還元策の強化などを提案しています。
投資アプローチ
バリューアクトは、投資先企業と建設的なプライベートの対話を通じて、長期的な企業価値向上を目指しています 。
活動事例
- セブン&アイ・ホールディングスへの株主提案: バリューアクトは、セブン&アイ・ホールディングスに対し、コンビニ事業の分離・独立などを求める株主提案を行いました 。
- オリンパスへの投資: バリューアクトは、オリンパスに対し、取締役を派遣し、経営改革を支援しました 。
エフィッシモ・キャピタル・マネジメント
エフィッシモ・キャピタル・マネジメントは、旧村上ファンドの幹部であった高坂卓志氏ら3人が、2006年にシンガポールで立ち上げた投資ファンドです 。 日本株の推定運用額が1兆円を超えており、「国内最強アクティビスト」として知られています 。
投資目的・活動内容
エフィッシモは、投資先企業の企業価値向上と持続的成長を促すことを目的としています 。 具体的には、株主還元策の強化、事業ポートフォリオの見直し、ガバナンス体制の改善などを提案しています。
投資アプローチ
エフィッシモは、投資先企業と建設的な対話を行いながら、企業価値向上を目指しています 。 必要に応じて、株主提案や株主総会での議決権行使など、積極的な行動をとることもあります。
活動事例
- 川崎汽船へのエンゲージメント: エフィッシモは、川崎汽船に対し、取締役の選任や経営戦略の見直しなどを要求し、同社はこれを受け入れました 。
- 東芝への株主提案: エフィッシモは、東芝に対し、独立した調査委員会の設置などを求める株主提案を行い、臨時株主総会で可決されました 。
ストラテジックキャピタル
ストラテジックキャピタルは、2014年に設立された、日本の上場企業の株式に投資し、経営者との対話や株主の権利行使を行うことにより、投資先企業の企業価値・株主価値向上の実現を目標とした投資運用会社です 。
投資目的・活動内容
ストラテジックキャピタルは、投資先企業の企業価値・株主価値向上を目指し、経営陣との対話や株主提案などを通じて、経営戦略の見直しや資本効率の向上などを提案しています 。
投資アプローチ
ストラテジックキャピタルは、投資先企業と長期的なパートナーシップを築き、企業価値向上に貢献することを目指しています 。
活動事例
- ダイドーリミテッドへのエンゲージメント: ストラテジックキャピタルは、ダイドーリミテッドに対し、増配や自己株式取得などの株主還元策の強化を提案し、同社はこれを受け入れました 。
- 東洋証券へのエンゲージメント: ストラテジックキャピタルは、東洋証券に対し、自己株式取得や配当の増加などの株主還元策の強化を提案し、同社はこれを受け入れました 。
タイヨウ・パシフィック・パートナーズ
タイヨウ・パシフィック・パートナーズは、2001年に設立された、米国ワシントン州を拠点とするグローバル投資ファンドです 。 日本では2003年から運用を開始し、20年を超える運用実績を誇っています 。
投資目的・活動内容
タイヨウ・パシフィック・パートナーズは、企業の潜在力を解き放つことを目的としています 。 経営陣との信頼に基づく協働により、長期的な視点から持続的な企業価値の向上を目指す友好的な投資スタイルを特徴としています 。
投資アプローチ
長期的な視点から、投資先企業の事業再生・構築を通じて事業の成長及び拡大を支援し、その潜在能力を引き出す戦略に注力しています 。
活動事例
- ラクーンホールディングスへの投資: タイヨウ・パシフィック・パートナーズは、ラクーンホールディングスの株式を9%超取得しました 。
- ローランドDGへの投資: タイヨウ・パシフィック・パートナーズは、ローランドDGの経営陣による自社株買取りを支援しました 。
ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド
ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)は、老舗のアクティビストとして知られる米国の投資運用会社「ダルトン・インベストメンツ」の共同創業者ジェイミー・ローゼンワルド氏が英国で2020年に設立したファンドです 。
投資目的・活動内容
NAVFは、上場している日本の中堅企業の株式に投資を行い、株主価値の最大化を目的としています 。 具体的には、自社株買いや配当の増加による資本効率の向上を目指しています 。
投資アプローチ
NAVFは、アクティブなエンゲージメントを通じて、投資先企業の経営陣と協力し、企業価値向上を目指しています 。
活動事例
- 東亜道路工業への株主提案: NAVFは、東亜道路工業に対し、自己株式の取得と消却を求める株主提案を行いました 。
- 明星工業への株主提案: NAVFは、明星工業に対し、取締役の選任を求める株主提案を行いました 。
レノ
レノは、2000年代後半から日本で活発に活動している投資会社です 。 大手電機企業や金融機関の株式を大量に買い占め、大量保有報告書を次々と提出しています 。
投資目的・活動内容
レノは、投資を通じて企業価値向上を目指しています 。 具体的には、経営破綻した不動産企業の支援や、大手企業への投資などを行っています。
投資アプローチ
レノは、財務状況や事業内容などを分析し、投資先企業を選定しています 。 状況に応じて、経営陣に助言や提案を行うこともあります。
活動事例
- レオパレス21への投資: レノは、レオパレス21の株式を大量に取得し、経営再建を支援しました 。
- SBIホールディングスへの投資: レノは、SBIホールディングスの株式を大量に取得し、6%近くの株式を保有しました 。
C&Iホールディングス
C&Iホールディングスは、村上世彰氏の娘である村上絢氏がCEOを務める投資会社です 。 かつては外食・小売り等のブランドを育成するフランチャイズ事業を行っていましたが、2012年の倒産以降、上場株式投資などを目的とした事業を行っています 。
投資目的・活動内容
C&Iホールディングスは、上場株式投資などを通じて企業価値向上を目指しています 。 投資先企業に対し、ガバナンスの強化や株主還元策の充実などを求める活動を行っています。
投資アプローチ
C&Iホールディングスは、企業価値向上を目的としたエンゲージメント投資を行っています 。 投資先企業の経営陣と建設的な対話を行い、企業価値向上に貢献することを目指しています。
活動事例
- 黒田電気への株主提案: C&Iホールディングスは、黒田電気に対し、村上世彰氏を含む社外取締役の選任を求める株主提案を行いました 。
オフィスサポート
オフィスサポートは、不動産投資やリーシング戦略を通じて、テナントやオーナー、従業員の魅力を高める環境をつくりだすことを目的とした企業です 。
投資目的・活動内容
オフィスサポートは、不動産投資を通じて企業価値向上を目指しています 。 あらゆるタイプの不動産の売却や取得をサポートし、不動産投資家と不動産オーナーのビジネスチャンスを創出します 。
投資アプローチ
オフィスサポートは、データに基づいた不動産ソリューションを提供し、業界特有のニーズに対応します 。
活動事例
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シティインデックスイレブンス
シティインデックスイレブンスは、日本の上場企業のあるべき姿を追求すること、コーポレートガバナンスの思想を浸透させることを掲げ、これまで数多くの上場企業に投資を行ってきた会社です 。
投資目的・活動内容
シティインデックスイレブンスは、投資を通じて企業価値・株主価値向上を目指しています 。 投資先企業と建設的な対話をすることによってその企業価値・株主価値を高めていくことを目指しています 。
投資アプローチ
シティインデックスイレブンスは、コーポレートガバナンスの強化、株主還元策の充実などを投資先企業に求めています 。
活動事例
- コスモエネルギーホールディングスへの株主提案: シティインデックスイレブンスは、コスモエネルギーホールディングスに対し、剰余金の配当や自己株式取得などの株主還元策の強化を提案しました 。
- ジャフコグループへのエンゲージメント: シティインデックスイレブンスは、ジャフコグループに対し、野村総合研究所の株式を売却し、自社株買いを行うよう提案しました 。
南青山不動産
南青山不動産は、2007年に設立された不動産投資会社です 。
投資目的・活動内容
南青山不動産は、大豊建設の株式の9.07%を保有しており 、純投資を目的としています。
投資アプローチ
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活動事例
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エスグラントコーポレーション
エスグラントコーポレーションは、かつて東京都内中心に投資用高級ワンルームマンションを開発・販売し、賃貸管理、人材派遣業務も行っていた企業です 。 2009年に民事再生法の適用を申請した後、村上世彰氏が関係する投資会社となりました 。
投資目的・活動内容
エスグラントコーポレーションは、不動産投資を通じて企業価値向上を目指しています 。 不動産流動化事業、賃貸管理事業、建物管理事業、アセットマネジメント事業などを行っています。
投資アプローチ
情報がありません。
活動事例
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ストラテジックキャピタル
ストラテジックキャピタルは、日本の上場企業の株式に投資し、経営者との対話や株主の権利行使を行うことにより、投資先企業の企業価値・株主価値向上の実現を目標とした投資運用会社です 。
投資目的・活動内容
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投資アプローチ
ストラテジックキャピタルは、投資先企業の企業価値・株主価値向上を目指し、経営陣との対話や株主提案などを通じて、経営戦略の見直しや資本効率の向上などを提案しています 。
活動事例
- 日産自動車への株主提案: ストラテジックキャピタルは、日産自動車に対し、上場子会社の吸収合併を求める株主提案を行いました 。
アクティビスト投資の現状と今後の展望
日本企業に対するアクティビスト投資は、近年増加傾向にあります 。東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対し、資本効率の向上に向けた計画の開示を求めるなど、株主重視の姿勢を明確化していることが背景にあります 。
こうした状況下、アクティビスト投資家は、これまで以上に積極的な提案活動を行うことが予想されます 。特に、事業ポートフォリオの見直しや、非中核事業の売却、そして株主還元策の強化などが、今後の提案のトレンドとなる可能性があります 。
また、アクティビスト投資家の活動は、企業価値向上だけでなく、コーポレートガバナンスの強化や、株主との建設的な対話促進にも貢献すると期待されています。
加えて、近年では、アクティビスト投資家のアプローチが変化してきている点にも注目すべきです 。かつては、敵対的な買収や、短期的な利益を追求する活動が目立つこともありました。しかし、近年では、投資先企業と長期的なパートナーシップを築き、企業価値向上に貢献しようとするアクティビストが増えています。これは、日本企業のコーポレートガバナンスが向上し、株主との対話姿勢が改善されたことなどが背景にあると考えられます。
さらに、アクティビスト投資家が注目する企業の特徴として、低いPBR、高い現金保有、そしてコーポレートガバナンスの不備などが挙げられます 。これらの特徴を持つ企業は、アクティビスト投資家から、資本効率の向上や事業ポートフォリオの見直しなどを求められる可能性が高いため、注意が必要です。
結論
アクティビスト投資は、日本企業の経営に大きな影響を与える可能性を秘めています。企業は、アクティビスト投資家の提案に対して、真摯に耳を傾け、建設的な対話を行うことが重要です。また、株主との信頼関係を構築し、長期的な視点に立った企業価値向上を目指していくことが求められます。
アクティビスト投資は、今後も増加傾向が続くことが予想されます。企業は、アクティビスト投資の現状と今後の展望を理解し、適切な対応を検討していく必要があります。