競馬で回収率を上げるために:学術研究から見る馬券購入法とバイアス
競馬は、馬の能力、騎手の技量、そして運が絡み合い、多くの人を魅了するスポーツです。しかし、継続的に利益を上げ、馬券の回収率を上げることは簡単ではありません。競馬で勝つためには、情報収集と分析、そして冷静な判断が不可欠です。
この記事では、学術研究に基づき、馬券の回収率向上に役立つ情報と、馬券購入時に陥りがちなバイアスについて解説します。競馬新聞や専門家の予想だけでなく、学術的な知見を取り入れることで、より深い分析と戦略的な馬券購入が可能になります。
馬券購入における学術研究
競馬は古くから研究対象となっており、近年では統計学、経済学、心理学など様々な分野から分析されています。
馬券購入法に関する研究
馬券の買い方に関する研究は、大きく分けて以下の二つに分類されます。
- ファンダメンタル分析: 馬の体重、年齢、過去のレース成績などの情報から、着順を予測する手法。
- テクニカル分析: オッズが馬の実力を反映しているという考えに基づき、オッズの変動や偏りから馬券を選ぶ手法。
多くの研究では、どちらか一方の手法を用いますが、近年では両者を組み合わせた研究も進められています。例えば、機械学習を用いて過去のレースデータから馬の複勝圏内に入る確率を予測し、その確率とオッズを比較することで、回収率の高い馬券を見つけ出す試みが行われています。
また、日本の公営競馬では、各馬の単勝オッズを分析することで、リスクフリーの裁定取引(アービトラージ)の機会が見つかる場合があります。これは、それぞれの馬について最も割安な方法で単勝馬券を組み合わせることで、どの馬が1着、2着、3着になっても、払戻金総額が馬券購入費用を上回るように馬券を購入する手法です。過去の研究では、荒尾競馬場の175レースを分析した結果、2つのレースでこのような裁定取引の機会が発見されています。
これらの研究結果から、ファンダメンタル分析とテクニカル分析を組み合わせることで、レース結果の予測精度を高め、収益性を向上させることができる可能性が示唆されます。
馬券購入時のバイアスに関する研究
人間は、常に合理的な判断をするとは限りません。馬券購入時にも、様々なバイアス(偏り)が影響を及ぼすことが知られています。
代表的なバイアスとして、「本命-大穴バイアス (favorite-longshot bias)」が挙げられます。これは、的中確率の低い大穴馬券に過剰に賭けてしまう傾向を指します。
このバイアスは、プロスペクト理論で説明される「微小確率の過大評価」と関連しています。人は、低い確率で大きな利益を得られる可能性に魅力を感じ、その確率を実際よりも高く見積もってしまう傾向があります。
また、認知心理学の分野では、「処理流暢性」の概念が提唱されています。これは、情報の処理しやすさが判断に影響を与えるというものです。競馬においては、馬柱に記載されている情報の見やすさや、過去のレース結果の表示方法などが、馬券購入時の判断に影響を与える可能性があります。処理流暢性バイアスは、馬券購入者が情報を誤って判断し、最適ではない選択をしてしまう可能性があります。
さらに、近年の研究では、ペイオフ(払戻金)の提示方法が、馬券購入者の選択に影響を与え、ロングショットバイアスの一因となることが示唆されています。具体的には、ペイオフを比較しやすい形で提示すると、ロングショットの魅力がより高まってしまう傾向があるようです。
これらのバイアスに加えて、海外の研究では、馬主や調教師など、内部情報を持つ人が存在し、その情報がオッズに影響を与える可能性が指摘されています。特に、レース経験のない2歳馬のオッズは、内部情報の影響を受けやすく、平均で15%程度高くなるとされています。
さらに、賭けのタイミングもオッズの偏りに影響を与える可能性があります。レースが始まる前に賭ける場合と、レースが始まった後に賭ける場合では、オッズの偏りに違いがあるという研究結果があります。
これらの研究結果を踏まえると、馬券購入時には、様々なバイアスや外部要因が影響を及ぼしていることを認識し、冷静かつ客観的な判断を心がけることが重要です。
回収率向上のためのポイント
上記の学術研究を踏まえ、馬券の回収率を上げるために重要と考えられるポイントを以下にまとめます。
- 情報収集と分析: ファンダメンタル分析とテクニカル分析の両方を活用し、様々な情報を収集・分析することが重要です。
- ファンダメンタル分析: 過去のレース成績、血統、調教情報、騎手との相性など、馬の能力や状態を評価するための情報を収集します。
- テクニカル分析: オッズの変動、人気馬の傾向、レース展開などを分析し、馬券購入のタイミングや買い方などを検討します。
- データ分析は、過小評価されている馬を見つけ、市場の非効率性を利用する上で重要です。
- バイアスへの対処: 馬券購入時に陥りがちなバイアスを認識し、冷静な判断を心がけることが重要です。
- 本命-大穴バイアス: 的中確率の低い馬券に過度に期待せず、冷静にオッズと期待値を比較しましょう。
- 処理流暢性バイアス: 馬柱の見やすさや情報提示の方法に惑わされず、客観的な情報に基づいて判断しましょう。
- 期待値の重視: 馬券を購入する際は、常に期待値を意識することが重要です。期待値とは、的中確率とオッズを掛け合わせた値であり、1を超える場合は長期的に見て利益が見込めます。
- 常に高いオッズの本命馬に賭けることで、長期的なペイアウトを最大化することができます。
- 資金管理: 競馬はギャンブルである以上、必ず勝てるとは限りません。資金管理を徹底し、無理のない範囲で馬券を購入しましょう。
バイアスの種類と対処法
- 本命-大穴バイアス: 的中確率の低い大穴馬券に過剰に賭けてしまう傾向。
- 対処法: 的中確率とオッズを冷静に比較し、期待値に基づいて馬券を購入する。
- 処理流暢性バイアス: 情報の処理しやすさ(見やすさなど)に影響され、判断が歪んでしまう傾向。
- 対処法: 馬柱の見やすさなどに惑わされず、客観的な情報に基づいて判断する。
具体的な例
例1: 本命-大穴バイアス
10頭立てのレースで、1番人気の馬の単勝オッズは1.5倍、10番人気の馬の単勝オッズは50倍です。周りの観客は、10番人気の馬が勝ったら大金が手に入ると興奮気味に話しています。あなたも、その熱気に押され、10番人気の馬に賭けてみようかと考え始めます。
しかし、ここで冷静に考えてみましょう。10番人気の馬が勝つ確率は、オッズが示す通り、極めて低いはずです。たとえ高額の払戻金が得られる可能性があったとしても、的中する確率が非常に低ければ、期待値は低いと言わざるを得ません。
このように、大穴馬券の当選確率を過大評価してしまうのは、本命-大穴バイアスに陥っている典型的な例です。馬券を購入する際は、周りの雰囲気に流されず、冷静にオッズと期待値を比較することが重要です。
例2: 処理流暢性バイアス
競馬新聞で、ある馬の過去のレース成績が、カラフルで見やすいグラフで表示されていることに気づきました。そのグラフを見ると、その馬は安定して好成績を収めているように見えます。
しかし、グラフの見やすさに惑わされてはいけません。グラフは、情報を視覚的に分かりやすく表現するためのツールですが、時には情報の本質を見えにくくしてしまうこともあります。過去のレース成績は、グラフだけでなく、具体的な着順やタイムなどの数値で確認し、客観的に判断することが重要です。
まとめ
競馬で回収率を上げるためには、情報収集と分析、バイアスへの対処、期待値の重視、そして資金管理が重要です。
情報収集の際には、過去のレース結果だけでなく、馬の血統、調教情報、騎手との相性など、多角的な視点から情報を集めることが重要です。
また、馬券購入時には、様々なバイアスが影響を及ぼす可能性があることを認識しておく必要があります。本命-大穴バイアスや処理流暢性バイアスなど、人間の心理的な傾向が、冷静な判断を妨げ、回収率を低下させる可能性があります。これらのバイアスに陥らないためには、客観的なデータに基づいて馬券を選び、感情的な判断を避けることが重要です。
さらに、期待値を意識することも重要です。期待値とは、的中確率とオッズを掛け合わせた値であり、1を超える場合は長期的に見て利益が見込めます。馬券を購入する際は、常に期待値を計算し、より高い期待値の馬券を選ぶように心がけましょう。
学術研究から得られた知見を参考に、より戦略的な馬券購入を目指しましょう。
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